キンコーンカンコーン
　始業チャイムのベルが鳴り渡る。
　なんとか今日も間に合った……
　俺は肩で息をしながら席へとついた。
　隣では瑞希が「しょうがないなぁ」といった感じで苦笑いを浮かべている。
　俺だって別に好きでこんなギリギリに来たわけじゃないぞ……
　俺は心の中でそう呟いた。
　今日はちゃんとした理由がある。
　マリィがいなくなったのだ。
　家の中を捜しても、どこにも。
　その分の時間のロスが結果的にマラソンで挽回するハメになったのだ。
　俺が起きた時はもうマリィはいなかった。
　一体どこへ行ってしまったんだろうか……
　そんなことを考えながら二度、三度深呼吸をする。
　奈緒先生が教室へ入ってきた。
「はいはーい。今日は転入生の紹介をします」
　奈緒先生の言葉にざわめく教室。
「転入生だって……珍しいね。この時期に」
「ああ、そうだな」
「功司君、気にならないの？」
「別にぃ……」
「もぅ……つまらないなぁ」
　横で囁きかけてきた瑞希は俺のそっけない態度にあきれてしまう。
　俺も転入生が気にならないと言えばウソになるが、今はマリィのことで頭がいっぱいだった。
「それじゃ、入ってきて」
　奈緒先生がそう廊下に向かって話しかけた。
　少し間を置いてその転入生が入ってくる。
「いっ！！？」
　俺はその人物をみて目を丸くした。
　その転入生とは、マリィだった。
　マリィは聖遼学園の制服に身を包み、恥ずかしそうにモジモジしながら教壇の上へと上がる。
　転入生が女子だったと言うことで、男子生徒からは拍手喝采の嵐だ。
　まぁ、マリィは普通目に見てもカワイイから仕方ないことなんだろうけども。
「はい、静かにして！！」
　奈緒先生の注意が飛ぶ。
　教室は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「それじゃあ、自己紹介をお願い」
「はい」
　奈緒先生に促されてマリィは前に進み出る。
「マリィ＝アルカネットです。短い間かもしれませんが、皆さん、よろしくお願いします」
　丁寧にお辞儀をするマリィに向かって、野郎どもらから再び歓声と拍手喝采が沸き上がる。
「はーい、静かに！！」
　奈緒先生が懸命に注意をするがその喧騒は納まりそうもない。
「マリィちゃん恋人はいるの？」
「マリィちゃん住んでる場所教えて」
　矢継ぎ早にマリィへ質問が浴びせられる。
　こうなってしまっては奈緒先生もお手上げ状態だ。
　マリィはというと、なにか考えてるように思案げな表情を浮かべている。
「もぅ！！いい加減に……」
　そして奈緒先生が大声を上げようとした時のことだった。
「えっと、あたし、今ホームステイをしてるんです」
　マリィが奈緒先生の言葉を遮るかのように言葉を発した。
「ですから、牧村君に教えて貰ったこと以外知らないこと沢山ありますけど、もしあたしがなにか不快なこととかしちゃっても笑って許してくださいね」
「ぬ、ぬぁにぃぃぃぃぃっ！！？」
　俺はまったく予期していなかった言葉に腰を抜かしそうになった。
　気がつけばクラス中の視線が俺に注がれている。
　無論、男子生徒は敵意を持った眼差しだ。
　そして、両隣の瑞希、田ノ中の視線がチクチクと痛い。
　ああ瑞希……そんな目で俺を見ないでくれ……
　そう心で願っても届くはずもなかった。
　結局、マリィの爆弾発言で教室は平静を取り戻したが、その代償として俺の知られざる秘密が１つ、暴かれることになってしまったのだった。