「さっ、功司君。どーゆーことか、はっきりわかるように説明してもらいましょうか！」
「え、えっと、その、なんだ……」
「お兄様！！声が小さいです！！」
「は、はい……」
　俺は額の汗をハンカチでぬぐいながら頭の中で単語を組みたてる。
　昼休み、俺はマリィと共に瑞希に学食へ招待された。
　もっとも、学食への招待と言えば聞えはいいが、その実尋問のようなもので、現に向かい側に腰かけてる瑞希と、それに瑞希に呼ばれた静乃が揃って怖い顔して俺を睨んでいる。
　まるで取り調べ室で取調べを受けている容疑者のような気分だ。
　そして瑞希が持ってきたのは、ご丁寧にもカツ丼だったことを考えると、おそらく瑞希達もそう考えているのだろう。
「えっと、つまり、だな。マリィが突然俺のところにやってきて、元の世界に帰る方法がわからないから、帰る方法が見つかるまで俺の家に住むことになった、と」
「あたし帰らないわよ」
　間髪いれずマリィが口を挟む。
　一段と瑞希と静乃の表情が険しくなった。
　ああ……マリィ、なんてこというんだ……
　俺は頭を抱えながら、なんとかこの場を丸く納める方法はないかと模索した。
　まるで修羅場にいるような気分だ。
　いや、実際はそうなんだろうけど。
「あたしは功司君が好きなの。文句ある？」
　マリィは喧嘩腰の口調で睨み返す。
　視線と視線がぶつかり合って火花がスパークしている。
　ああ、なんだってこんなことになったんだ……
　俺は悪くないよな？うん、絶対不可抗力だ。
　そう自分に言い聞かせても虚しいものがあるが、そうせずにはいられない気分だ。
「功司君」
「は、はい……」
「功司君は、これからどうするつもりなの？」
「どうするって？」
「マリィさんとのことよ！！」
　バン！！
　瑞希は机を力強く叩いた。
「功司君、もし私が功司君の家に押しかけでもしたら、功司君喜んで同棲してくれるの？」
「いいっ！？」
「お兄様！！それ、私も同じ気持ちです！！もし私がお兄様のところへいったら、お兄様一緒に暮らしてくださるんですか！？」
　二人はずずい、と詰め寄ってくる。
　まさに鬼気迫るといった迫力だ。
「ダメよ！！そんなの、あたしが許さないんだから！！」
　そこへマリィが割ってはいる。
「功司君はあたしの恋人なんだから！！」
　そしてさらに余計な一言。
　ああ、火に油を注いじゃったよ……
　案の定、この発言は瑞希と静乃の感情を逆なでした。
「いつ功司君があなたの恋人になったのよ！？」
「そうですよ！！お兄様はそんな人じゃありません！！」
「なによ！！功司君に一番お似合いのカップルは、あたしなんだから！！」
「寝言は寝てから言ってよね！！功司君を連れ戻したのは、私と矢城さんなんだから！！」
「第一、マリィさんはあのルートには出て来なかったじゃないですか！」
「出てこなくってもあたしは功司君が好きなのっ！！」
　絶え間なく口論が続く。
　おもいっきり注目集めちゃってるよ……
　俺はこの場を離れたい気分にかられたが、雰囲気がそれを許さなかったのでおとなしくこの場にいることにした。
　しっかし……災難だよなぁ……
　はぁ……
「で、功司君は一体誰が好きなの？」
「えっ？」
　突然瑞希が質問をふってきた。
「『えっ？』じゃないでしょ！？功司君は一体誰が好きなの！？」
「ええっ！？と、突然そんなこと言われても……」
「もちろん、私よね！？」
「お兄様、私、ですよね！？」
「功司君、あたしに決まってるよね！？」
　三人とも真剣な表情で俺を凝視している。
「え、えっと……」
　まいったなぁ……
　なんて言えばいいんだ？？
　とてもおいしいシチュエーションではあると思うんだが、それ以上にデンジャラスなシチュエーションだぞ、これって。
「お、俺は、だな……３人とも好き、かな？」
　結局俺は一番角が立たないと思われる安全パイの答え方をした。
　途端に三人の表情に落胆の色が浮かぶ。
「功司君、優柔不断な答えはよくないと思うよ」
「お兄様……」
「功司君、男なんだからはっきり答えてよ！」
「そう言われても、俺みんな好きだし……だから、ゴメン！」
　俺はそう答えるとカツ丼を口へと運び始めた。
　３人は顔を見合わせ、そして同時に溜息をついた。
　そして何故か笑っている。
　ひょっとしてピンチを切り抜けたってやつか？
　いやぁ、よかったよかった……
　俺はそう思いながらホッとため息をついた。
　そして、この光景を一部始終クラスの連中が目撃していたということに気がつくまで、さほど時間はかからなかった。