カシャァッ
　勢いよくカーテンを開けると眩しい陽光が差しこんできた。
　空一面には雲ひとつない青空が広がっている。
「うーん……いい天気だ」
　俺はそう思いながら窓を開けた。
　冷たい風が部屋の中へと吹き込んでくる。
　こんなに清々しい朝を迎えたのって、久しぶりだ。
　最近は目覚ましに起こされる日々が続いていたためか、朝から調子狂うことが多かったからな。
　実は深夜にマリィから「これを使えば気持ちよく目覚めることができるよ」と目覚まし時計を手渡されていたんだが、残念ながら使うことはなかったようだ。
　どんな目覚ましか気になったんだがマリィのやつ「かかってからのお楽しみだよ」なんていってたからなぁ……
　昨日はあんな時間に来られたから気にならなかったけど、一体どんな目覚ましなんだろう？？
　絶対目が覚める目覚まし……とか言ってたけど、ホントにどんな目覚ましなんだ？
　音量がものすごく大きいとか？
　それとも意思を持っていて体当たりを敢行してくるとか？
　まさか電流爆破するものじゃないだろうな……
　考えれば考えるほど不安は増大していく。
　あのマリィのことだ。
　どれもやりかねない。
　ひょっとして俺は物凄く危険なものを受け取ってしまったのでは……
　そう考えるとこの目覚まし時計がとても危険なシロモノに思えてきた。
　ははは……まさかな……
　俺は額に少し汗を浮かべながら窓を閉めた。
　その時、時計の針が午前６時を指した。
　目覚まし時計の機能が作動する。
「ラララ〜♪」
「！？」
　目覚まし時計から聞えてきたものはやかましいアラーム音でもなくけたたましいベルの音でもなく、とてもきれいな歌声だった。
　甘く、優しく、透き通った歌声。
　俺は我を忘れて思わず聞き入ってしまった。
　どんどんと心が安らいでいく。
　さらに、だんだんと眠くなってきた。
　目蓋の裏にお花畑が浮かんでくる。
　そして俺は、いつしかベッドの中に戻って眠りこんでしまった。

「……くん……うじくん……」
「……ん……」
「……功司君ってばぁ……」
「……ううん……」
　一体誰だよ……うるさいなぁ……
　そんなことを思いながら目を開けると、マリィが困った表情を浮かべながら俺を覗きこんでいた。
「……あれ？マリィ？」
「もぅ！！やっと起きた！！ほら功司君！！急がないと遅刻しちゃうよ！！」
「え？遅刻……？」
　マリィの言葉に俺は目蓋をこすりながら時計をみた。
「げっ！！なんだこの時間！！」
　その時間を見た瞬間、眠気がいっぺんに吹っ飛んだ。
　急がなければ絶対間に合わないと言った時間だ。
「功司君、あたしのあげた目覚まし使わなかったの！？」
「使ったよ！！そしたら眠っちまったんだ！！」
「なにそれ！？ひっどーい！！」
「現実なんだからしかたねーだろ！！」
　非難めいた眼差しを送るマリィを横目に、俺はベッドから抜け出ると寝巻きを脱ぎ始めた。
「やっ！！ちょ、ちょっといきなりなんてことするの！？功司君のエッチ！！」
「だぁ！！着替えるんだから部屋からでてろ！！」
「もぅ、知らない！！」
　マリィは顔を真っ赤にして部屋を出ていった。
「急がないとな……」
　俺は素早く身支度を整え、鞄を手にとった。
　玄関では既にマリィが出発する準備を整えている。
「ホラ、早くしないと遅刻しちゃうよ！！」
「わかってるって！！」
　俺達は家を出ると、そのままハイペースの長距離走へと突入した。
「もぅ、ホントに功司君はしょうがないんだから」
「悪かったって。マリィの歌声があんまりにもきれいだから、思わず聞き入っちまったんだよ」
「へぇ〜……そうだったの？」
「そうだよ。文句あるか？」
「ううん。ないよ」
　マリィはにこっと笑う。
　先ほどとは違い、とても嬉しそうだ。
　なんでそんなに嬉しいのかわからないんだけどな……
　とりあえず、俺は走ることに集中することにした。
　そして、なんとかギリギリで始業チャイムに間に合ったのだった。