俺は湖畔で紅茶を飲んでいた。
　誰もいない静かな湖畔。
　ミッドナイトブルーに染まった空一面には星の運河が広がり、蒼い流星が滑るように流れていく。
　湖面には丸い月がポッカリと浮かび、波紋によってゆらゆらと揺れていた。
　紅茶のカップをテーブルの上に置くと、瞳を閉じて耳を澄ませた。
　どこからともなく誰かの歌声が聞えてくる。
　甘く、懐かしく、心の奥底にまで響き渡るような優しい歌声。
　とても気分が安らいでいく。
　ずっとこのままこうしていたい気分だ。
　前にもこんなことがあったような気がする。
　そう、あの時は確か学校があって……
　ん？学校……？
「！！」
　俺はパッと目を覚ました。
　急いで時計を確認する。
　午前６時。
　どうやら今日はちゃんと起きられたようだ。
　ホッと溜息。
　そして横を向いた。
「！！」
　そしてそのまま固まった。　
　そこにはマリィの微笑を浮かべた表情があった。
　思考回路が混乱の渦に巻き込まれる。
「マ、マリィ、お、おまえ？」
「功司君、おはよ」
　マリィはそう言って、唇を重ね合わせてくる。
「…………！！」
　柔らかい感触の唇。
　俺の思考回路は停止する。
「えへへ。やっぱり機械を通した声よりも生のほうがいいかなぁ、って思って来ちゃった」
「マリィ……」
「功司君の寝顔、とってもかわいかったよ」
　マリィはクスッと微笑む。
　理性を押さえるにはもう限界だった。
「マリィ！！」
　俺はそのままマリィに覆い被さった。
「だ、ダメだよ功司君！！今日、学校だから」
「そんなもんサボる！！」
「そ、それにまだ朝だよ！？」
「構うもんか！！」
「もぅ功司君ってば……」
　顔を赤らめるマリィ。
　まったく抵抗しようとしない。
　交渉成立。
　そして俺は、マリィの歌声を存分に堪能したのだった。
　学校はサボることになっちまったけどな。