４時間目の授業のチャイムが鳴り終わると同時にマリィが俺の席へとやってきた。
「功司君、今日のお昼休み屋上で食べない？」
「ああ、いい……」
「あら？ごめんなさい。功司君は私と学食でお昼食べるのよ」
　俺が答えようとすると、瑞希がすかさず口を挟んできた。
「え？俺、瑞希とそんな約束してないぞ？」
「してなくてもいいの。もぅ、功司君ってデリカシーがないんだから！」
　俺の言葉に瑞希はぶぅっと膨れる。
「そんなこと言われても……」
　俺は返答につまってしまったが、マリィはそんな俺の腕を掴むと力強く引っ張った。
「約束してないんでしょ？じゃ、功司君、行きましょ」
「あ、ああ……」
　マリィに連行されるかのように俺も席を立ち上がる。
　正直者は時として辛い時があるんだよな……
　許せ瑞希。
　そう思いながら俺は教室を出て行った。
　クラスの連中がにやけていたのがちと気になったけど。

「あっ、そうだ」
　廊下に出た所で、俺は重要なことを思いだした。
「どうしたの？」
「俺、今日図書当番だったんだ」
「えー？サボっちゃいなよ、そんなの」
「うーん、本当はそうもいかないんだけど……そうしちゃおっかなぁ……」
　マリィの甘い誘惑に俺も同調しかける。
「ちょっと待ちなさいよ！聞き捨てならないわね！」
　そこへ、花乃香が現れた。
　おそらく図書室に行く途中なのだろう。
　堂々と図書当番をサボろうとする俺の前に立ちはだかる。
「マリィさん、だっけ？あなた、牧村君に変なこと吹き込まないでちょうだい」
「なによあなた。別にあたしは変なこと吹き込んだりしてないわよ」
「いいえ！！立派に吹きこんでるわよ。さ、牧村君。図書室に行きましょ」
「ダメ！！功司君はあたしと一緒に屋上に行くの！！」
　二人はお互いの主張を一歩も譲ろうとはしない。
　ああ、こんな時俺はどうすればいいんだ……

　１．花乃香と一緒に図書室へ行く
　２．マリィと一緒に屋上へ行く
　３．この場から逃げ出す

　３番は一番選択したい選択肢であったが、現実的には不可能なことであった。
　となるとやっぱり……
「花乃香、ごめん。今日の図書当番休ませてもらうわ」
「えっ？」
「そういうわけだから。じゃ！」
　俺はマリィの手を取るとその場からかけだした。
「あっ！！ちょ、ちょっと待ちなさいよ！！」
　後方から花乃香の非難めいた声が聞えてくるが気にしない。
　廊下を疾走し、階段を駆け上がり、扉を開ける。
　どうやら花乃香は追ってこないようだ。
　俺はホッと安心しながら屋上へでた。
　屋上には誰もいなかった。
「うーん、やっぱりここって穴場だよね」
　マリィがそう感想を述べた。
「ところで功司君、そろそろ手、離してくれないかな？お弁当出せないんだけど」
「あっ、わ、わりぃ」
　俺は慌てて握っていたマリィの手を離す。
　マリィはなんだかとても嬉しそうにしていた。
「ねぇ功司君」
「なんだ？」
「……ううん、やっぱなんでもない」
「なんだよ？気になるじゃないか」
「なんでもないから。さ、お弁当食べましょ」
「あ、ああ……」
　なんだかマリィの言葉が気になったが、それ以上は深く詮索しないことにした。
　マリィの笑顔を見ていると、とてもじゃないがそんな気になれなかった。
　そして俺達は、二人だけの貸しきり状態の屋上で、昼食を食べたのであった。