その日、俺はとても不思議な光景を目にした。
　いつものように学校から帰ってきて玄関のドアを開けるとマリィが出迎えてくれた。最近では珍しいことだが、決して不思議でもなんでもない。
　問題はその服装だ。
　どこから買ってきたのか（それとも手作り？）、ひらひらがついたメイド服を着ているのだ。
　これは一体何を意味するのか？

１．俺を驚かせようとして前々から計画を練っていた
２．単なる気分転換
３．新手のプレー

　俺の頭の中に３つの選択肢が思い浮かぶ。
　１はあのおしゃべりのマリィがそんなこと黙ってられるはずがないし、２は気分転換するならもっと違う服を着るはずだ。そして３は……って、俺の家は風俗店かよ！！
　ううむ……いきなり３つとも消滅して、謎だけが残ってしまったぞ。
　ここはマリィに直接聞いた方がはやそうだ。
「なぁ、マリィ……その格好、なんだ？」
「えへへ。どう、似合うかな？」
「似合うけど……」
「よかった。今日１日、メイドやってみようかなって思って」
「め、メイドぉ！？」
「そうだよ」
　マリィはクルリと一回転してみせる。
　まるでファッションショーに出演しているモデル気取りだ。
「で、なんでそんなもんやってみる気になったんだ？」
「ヒミツ♪」
「はぁ？秘密？」
「そうよ。だから教えてあげられないの」
「なんだよ。それくらい教えてくれたっていいじゃんか。ケチ」
「ケチとはなによケチとは！いい？女の子にはね、秘密の１つや２つあるものなのよ」
　マリィは人差し指をビシッとつきたてて俺を睨む。
　うーむ……ますます気になるぞ。
「秘密ってなぁ……俺達、毎晩ベッドを共にしてる仲じゃないか」
「そんなこといっても、ダメなものはダメ」
「どうしても？」
「どうしても」
　マリィはあくまで強情だった。
　となると、思い当たることは……
「わかったよ。どうせ最近読んでる少女漫画の血液型占いに『Ｏ型の人はメイドをやると運勢アップ』とか書かれていたんだろ？」
　俺がこう言うと、マリィの表情が変わった。
「な、なんで知ってるの？」
「図星か」
「あっ……」
　マリィはしまったと言う表情をみせ、そしてムスッと膨れてしまう。
「功司君のイジワル」
　そして怒ったように一言。
　なんだかとてもかわいらしい仕草だった。
　それにしても……まさか適当に言ったことが本当に当たってるとは……
　苦笑せずにはいられない。
「それでマリィ、俺はどうしたらいいんだ？」
「え？どうしたら……って」
「マリィがメイドだったら、俺はご主人様ってことだろ？やっぱ命令とかしたほうがいいのかな？」
　俺の言葉にマリィはうーんと考えこむような仕草を見せると、ニッコリと微笑んだ。
「別にいいよ。功司君、エッチなことお願いしそうだから」
「そっか。残念だな……って、なんで俺が！？」
「無理しない。今とっても残念そうな顔してたよ」
　マリィはイタズラっぽく言う。先ほどのおかえしなのだろう。
「ああ、わかったよ。俺が悪かった」
　俺は素直に自分の負けを認めた。
　まぁ、こんなことでマリィと喧嘩しても仕方ないしな。
「わかればよろしい」
　マリィも満足そうにエッヘンと胸を張る。
「それで功司君、お夕飯先にする？それともお風呂？」
　そして唐突に話題を変えてきた。
「うーん……それじゃあ君を食べよっかなぁ」
　俺もつい悪ノリで答えてしまう。
「功司君のエッチ。それじゃあお風呂できまりだね。ちょうど沸いてるからすぐにでもはいれるよ」
　マリィは俺の返事を軽くいなして、そう言った。
　どうやら俺には選択権はないようだ。
「わかったよ」
　俺は諦めて風呂場へ向かおうとした。
「あっ、待って」
　そこで、マリィが突然呼びとめる。
「どうしたんだ？」
「Ｙシャツのボタン、取れかかってるよ？」
「えっ？」
　俺はマリィの言葉に着ていたＹシャツをみた。
　確かに第３ボタンが取れかかっていた。
「あたし、縫ってあげるよ。ほら功司君、脱いで」
「え？いいのか？」
「うん、大丈夫だよ」
「ならお願しよっかな」
　俺はＹシャツを脱ぐとマリィに手渡した。
「わりいな。それじゃよろしく頼む」
「いいのよ。あっ、でも今日は一緒にお風呂はいれないけど、いいよね？」
「いいって」
　俺は苦笑しながら風呂場へ向かおうとする。
　と、再びマリィが今度はＴシャツの裾を掴んで俺を呼び止めた。
「今度はなんだよ？」
「ただいまの挨拶がまだだよ」
「あっ、そっか。マリィ、ただいま」
「もぅ！！違うでしょ！！」
　俺の言葉にマリィはぷんぷんと怒る仕草を見せる。
　そして恥ずかしそうに頬を赤らめながら人差し指を自分の口元に当てた。
「ただいまの挨拶はココでしょ」
「そ、そうだな」
　俺はマリィにキスをすると、そのまま風呂場へとむかった。