「ふー、さっぱりした」
　風呂からあがった俺はすぐさまキッチンへとむかった。
　用意のいいマリィのことだ。すぐに夕食の準備が出来てるに違いない。
「マリィ……あれ？」
　しかし、俺の予想に反してそこにマリィの姿はなかった。
「おかしいな……マリィ？」
　俺は不思議に思ってリビングにも行ってみたが、やはりマリィの姿はない。
「どこいったんだろ……ひょっとして部屋にいるのかな？」
　俺は階段を上がって、二階へと行った。
　マリィの部屋は俺の向かい側にある。
　ドアには『入室中』というプレートがかかっていた。
「マリィ？いるのか？」
　コンコン、とドアをノックしても返事がない。
「マリィ？」
　俺は再びドアをノックしようとした。
「いたっ！！」
　そこへ小さな悲鳴が上がる。
「マリィ！？」
　俺はたまらずドアを開けた。
「あ……功司君……」
　マリィが目に涙を浮かべながら俺のほうを見る。
　手元には針と糸が、そして膝本には俺のＹシャツがのっかっている。
「ひょっとして……いままでずっとそれやってたのか？」
「仕方ないじゃない。あたし、裁縫苦手なんだもん」
　マリィが悲しそうな表情を見せる。
「それで、針を自分の指に刺しちゃった、と？」
「そうなの。とっても痛かった……」
「まったくそそっかしいな。どれ、見せてみろ」
「う、うん……」
　俺はマリィの側によって右手の人差し指をみた。
　わずかだが血がにじみ出てきている。
「血が出てきたよ……」
「そんなもん大丈夫だって。こうすればいいんだよ」
「あっ……」
　俺はマリィの左手の人差し指をしゃぶるように口の中へと入れた。
　マリィは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに顔が赤くなる。
　俺がマリィの人差し指を解放した時には既に血はとまっていた。
「ほら、もう大丈夫だぞ」
「うん……功司君、優しいんだね」
「当たり前だ。マリィの悲しむ顔なんて見たくないからな」
「功司君……」
　マリィは瞳を潤ませながら俺を見つめる。
　そして俺達は今日２回目のキスをした。

「はい、おまたせー」
「やっとできたの……げっ！？なんだこりゃ！？」
　俺は目の前に置かれた料理を見て愕然となった。
　ウナギ、スッポン、ステーキ、マムシ酒など、何故かやたらと精のつくようなものばかりが、集中的に俺の前に並べられている。
「えへへ。今日は嬉しいことがあったからちょっと奮発しちゃった」
　マリィは微笑みながらペロっと舌をだした。
「あ、あの、マリィさん……これは一体？」
「みてのとおりよ功司さん♪今日は寝かさないんだから」
　予想通りと言うか、マリィはとんでもないことを口走る。
「残したりしたら許さないわよ」
　そしてさらに追い討ちの一言。
　微笑みながら言われるところに、マリィの恐ろしさがうかがえる。
「あ、ああ……」
　俺は椅子に座ると、箸を持った。
「い、いただきます……」
「はいどうぞ、召し上がれ」
　ゴクッと生唾を飲み、ちらっとマリィを見ると、彼女は俺をじーっと見つめていた。
　絶対に食べないと承知しないんだから、と言う暗黙のプレッシャーだ。
　はぁ……仕方ないな。
　俺は覚悟を決めると、それらの料理に箸をつけていったのだった。
　え？お酒は２０歳になってから？
　まぁ……マムシ酒は薬用酒、ってことにしておいてくれ。