「う〜……さむっ！」
　俺はコートのポケットに手を突っ込みながら駅前のアーケードを歩いていた。
　別にこれと言って理由はない。
　あえて理由を挙げるとするならば、それは暇だったからだ。
　灰色に染まった空からは雪がちらほらと舞い始めてきている。
　そういえば大雪注意報とか出てたような気がするな……
　まぁ、俺にはあまり関係ないことではあったんだが。
　ちなみに、いつも一緒にいるマリィはいない。
　学校が終わるや「あたし、ちょっと用事があるから！」と脱兎の如く教室を飛び出して行ってしまった。
　マリィと一緒に下校しないなんて本当、久方ぶりだ。
　ま、マリィも一人になりたい時だってあるだろうしな。
　さて、と……これからどーすっかな？
　久しぶりにゲーセンにでも行ってみよっかな……
　そう考えながら歩いていると、前方になんだか見慣れた人物を発見した。
　あの髪型、あの髪の色、あの格好……
　間違いない。マリィだ。
　一体こんなところでなにやってるんだろ？
　などと思ってると、マリィに駆け寄る人物がいた。
　あれは……永易！？
　ひょっとしてマリィの奴、永易と待ち合わせしてたからさっさと一人で帰ったのか？
　永易の野郎……花乃香がいながら俺の彼女に手をだすなんて……絶対に許せん！！
　しかし、永易はマリィと二言三言話すと、そのまま何事もなかったかのように別れていってしまった。
　あ、あれ？？
　その光景に拍子抜けしつつ、安堵のため息が漏れる。
　どうやらたまたま永易の奴がマリィを見かけて、声をかけただけのようだった。
　しっかし、マリィはなんでこんな所にいるんだろ……？
　ええい、ここで考えてみても始まらん。
　俺は手っ取り早く悩みを解決するため、直接マリィに尋ねてみることにした。
　幸い、マリィは歩くスピードが遅かったのですぐに追いつくことができた。
　しかし、マリィのほうは俺が近寄ってきたことに気づいていないらしい。
「よっ、マリィ」
　俺が肩にポンと手をかけると、マリィは何故かひどく肩をビクッと震わせた。
　そして恐る恐る、後ろを振り返る。
　ひどく驚いた表情。そして口元にはヤキイモが……
「ふ、ふぉふひふん！？」
「ははーん。なるほど」
　俺はその姿をみてすべてを察した。
「そんなにヤキイモ食いたかったのか？隠すことないのに」
　俺がニヤニヤしながらそう言うと、マリィは口に含んでいた焼芋を食べてからムスッと膨れて言い返した。
「なによぅ！！女の子には誰だってひとつやふたつ、秘密があるものなのっ！」
「あー、はいはい。わかったわかった。別に恥ずかしいことじゃないと思うんだけど」
「功司君はそうじゃなくっても、あたしは恥ずかしいのっ！」
「そういうもんなのか？静乃辺りだったらとっても喜びそうだけど」
「呼びましたか？」
　俺がその言葉を発した途端、横から声がした。
　いつのまにか静乃が立っているではないか。
「こんにちわ、お兄様、マリィさん」
　静乃はペコリと頭を下げる。
「静乃……お前、いつからそこにいたんだ？」
「いつからって……お兄様が『隠すことないのに』っておっしゃったところからですけどぉ〜？」
　静乃はニヤニヤ笑いながら俺達の顔を見る。
「お兄様ぁ、私お腹すいちゃいましたぁ〜。なにか食べたいなぁ〜」
　そしてわざとらしく、妙に甘い猫なで声を発しながら俺に迫ってきた。
「あー、わかったわかった。焼芋買えばいいんだろ？まったく」
「そーですよ。買えばいいんですよ」
　静乃はクスッと笑う。
　はぁ……こんなことならマリィに声かけるんじゃなかった……
「功司君、あたしの分もお願ね♪」
　などと考えていたら、マリィもおねだりをしてきた。
　いつの間にか持っていた紙袋の中身は空になっている。
「わかったわかった」
　俺達は早速ヤキイモが売っている店へといった。
　一昔前ならば石焼芋と言えばリヤカーを引っ張ったじいさまが計り売りをする、と言うのが一般的であったが、今ではコンビニでも手軽に買える時代になってしまった。
　嬉しいのやら悲しいのやら、秋〜冬の風物詩が消えてしまったようで、少しだけ寂しい気分になる。
　俺達は店につくと、早速注文をした。
「静乃、いくつほしいんだ？」
「えっと……３つ、お願します」
「マリィは？」
「あたしも３つ」
「それじゃあ……」
「私も３つだから、合計９個でお願い♪」
「ああ。それじゃあ９本ください……えっ？」
　なんだか聞き覚えのある声に俺は慌てて後ろを振り返った。
　なんとそこには懐かしいみこピー先生の顔があった。
「み、みこピー？」
「こらっ！先生に向かってみこピーとはなんですか？それに、買い食いは校則違反だぞ？」
　みこピーはイタズラっぽく指をビシッと突き出して見せる。
「牧村君、しばらく見ないうちにモテモテだね。こんなにかわいい彼女二人も連れちゃって。でも、二股はよくないわよ？」
「ふ、二股だなんて……」
「そうよ！功司君はあたしの彼であって、静乃ちゃんは妹みたいなものだから違うんだから！」
　俺の変わりにマリィがいらん言葉をつけて反論する。
「マリィさん、私、お兄様のことまだ諦めてませんから。いつか必ず、浄化してさし上げますのでご心配なく」
　静乃も静乃でまけじと反撃する。
　少しだけ漂う険悪な雰囲気。しかしそれもすぐに吹き飛んだ。
　注文したヤキイモがきたのだ。
　しかもご丁寧に紙袋を三つに分けて。
「ほら、おまちかねのもの」
　俺はそれをマリィ、静乃、みこピーに手渡した。
　３人ともすごく嬉しそうだ。
　そして俺達は談笑しながらアーケードの中を散策したのであった。