「う、うーん……」
　なんだか妙に肌寒さを感じた俺は、目をさますと目覚まし時計を手にとった。
　午前２時。
　普段なら熟睡している時刻で、目を覚ますことなんか滅多に無い時間だ。
「ふわぁ〜……」
　俺はあくびをしながら、ふと妙なことに気がついた。
　一緒に寝ていたはずのマリィがいない。
　どうせトイレかと思って、そのまま目を閉じ、夢の世界へと落ちようとした。
　だが……眠れなかった。
　逆に胸の鼓動がだんだんと高鳴っていく。
　まるで、なにかの予兆を察知するかのように。
　どうしたんだ一体？
　俺はから笑いしながら額を触った。
　とても寒いはずなのに、汗をかいている。
　…………なんだ、この不安は？
　俺はたまらずベッドから飛び起きた。
　部屋の電気をつけ、そして手近にあったマリィ愛用のドテラを着ると、そのまま部屋を飛び出した。
　なにかがおかしい。なんだこの違和感は？
　俺はマリィの姿を求め家中を探しまわった。
　キッチン、風呂場、トイレ、リビング……
　だが……マリィの姿はどこにもなかった。
「マリィ！！」
　俺はマリィの名前を叫んだ。
　しかし返事はない。
「マリィ……」
　俺は絶望に捕らわれた気分で、ふらふらと玄関に行った。
　そこで、またまた奇妙な光景を目にした。
　玄関の鍵が開いている。おまけにマリィの靴がない。
　外へ出たのか？
　俺は靴を履くと、ドアを開けた。
　途端に冷たい寒風が吹きこんでくる。
　突き刺さるような痛みだ。
「う〜……さぶっ！！」
　思わず身ぶるいしながら、外へとでる。
　とても寒いせいか、星空がとてもきれいだ。
　満月の光が、神秘的な光景にアクセントを添える。
　ふと、庭の方で気配を感じた。
　俺はそっと庭のほうに足を向けてみると、そこにはマリィがいた。
「なんだ、マリ……」
　俺はそこで、声をかけそこなってしまった。
　マリィの側に、もう一人、人物がいた。
　長く流れるよう青い髪、スラリと引き締まった抜群のプロポーション、そしてとても神秘的、かつアダルトな雰囲気を漂わせるその風貌。
「シーナ……？」
　俺は本能的にその名前を口走った。
　しかしシーナは身動きひとつしようとはしなかった。
「マリィ、これは一体……」
　俺はわけがわからず、マリィに近づこうとした。
　だが……
　動けなかった。
　別に足がすくんでいたわけではない。
　金縛りにあったかのように、動けなくなっていたのだ。
　言葉を発することもできない。
　マリィ！！
　俺は心の中でそう叫んだ。
　すると、マリィが俺のほうを振り向いた。
　だがその表情は、今にも泣き出しそうなとても悲しいものだ。
「功司君……あたし、帰らなくちゃ……」
　マリィは弱々しい声で小さく呟いた。
「今まで楽しかったよ。功司君……サヨナラ……」
　マリィの瞳から涙が溢れ、零れ落ちる。
　そしてマリィとシーナの身体は、煌びやかな月の光に溶けこむかのように、消えていった。
「マリィ！！」
　俺は必死で叫ぶと、夢中で駆け出した。
　いつもまにか金縛りはなくなっていた。
「マリィ！！マリィ！？」
　俺はその名前を必死で叫び続けた。
　しかし……まるで何事もなかったかのように、その場所はいつもと同じものだった。