真っ暗だった。
　何も見えない、無限に広がる漆黒の闇。
　ここがどこかもわからない。
　今どんな状態なのかもわからない。
　しかし……
　俺はそれでも歩み続けた。
　愛する少女の姿を求めて。
　マリィ……マリィ……！！
　俺は想いつづけた。念じつづけた。
　マリィの姿を。
　マリィの声を。
　そして、ひたすら歩き続けた。
　やがて……
　一筋の光が見えた。
　それはだんだんと大きいものになっていき、やがて俺を包みこんでいった。
　あまりの眩しさに想わず目を瞑ってしまう。
　……………………
　どれくらい時が経ったのだろう。
　波の音が聞えた。
　潮の香りがする。
　俺はおそるおそる目を開けると、そこには浜辺が広がっていた。
　近くにはペンション風の海の家も建っている。
　間違いない。ここはあの場所だ。
　俺は確信した。そして同時に、捜し求めていた少女の姿も見つけた。
「マリィ！！」
　俺は自然と駆け出していた。
「功司君……！」
　マリィは驚いた表情で俺を見る。
「どうして、ここに……？」
「言っただろ？マリィのいない生活なんて考えられないって。連れ戻しに来たに決まってるじゃないか」
「功司君……」
　マリィの瞳からジワッと涙が溢れ出す。
　しかし、その間に割ってはいるかのように、シーナが現れた。
　その表情はとても険しい。
「そんなこと、私が許さないわよ」
「シーナ……」
「牧村君、あなた自分がなにしてるかわかってるの？マリィはこの世界の住人よ。私と海の世界に帰るのが一番なんだから」
「違う……それは違うわシーナ……」
「マリィは黙ってて！」
　シーナは反論しようとするマリィを一喝する。
「いい？牧村君。人間のあなたがセイレーンのマリィと一緒になっても決して幸せになれるはずはないわ。それに、あなたとマリィじゃ所詮住む世界が違うのよ？」
「そんなの関係あるもんか！俺は絶対マリィを連れて帰る！！」
「大有りよ！！あなた、マリィを不幸にしたいの？」
「な、なんだと？俺がいつ、マリィを不幸に……」
「するに決まってるじゃない！この世界ではなんとかなることでも、現実はもっともっと厳しいのよ。私はマリィをセラのようにしたくないの！」
　シーナは強い口調で言い放つ。
「もういいよ、シーナ……」
　マリィが悲しそうな表情を浮かべながら、シーナを制止するかのように前に進みでた。
「ゴメンね功司君。こんな形で別れることになっちゃって」
「マリィ……」
「あたし、シーナと一緒に海の世界に帰るから」
「……俺って、そんなに頼りないかなぁ？」
「えっ？」
「俺ってそんなに……マリィを守ってやれないような男に見えるかなぁ……」
「功司君……」
　マリィの声がかすれたものになる。
「ゴメン……」
「……………………」
　俺は黙ってマリィの腕を掴むと、強引に抱き寄せた。
　そして力強く抱きしめて離さない。
「行くなマリィ。俺といっしょに、帰ろう」
「功司君……あたし……あたし……！！」
「わかってるって。何も言うな」
「うん……」
　マリィは静かに瞳を閉じる。
「はぁ……負けたわ……」
　その様子を黙って見守っていたシーナが、ため息をついてクスッと笑った。
「今回は私の負けのようね。でも、マリィを泣かせるような真似したら承知しないわよ？」
「わかってるって。それは杞憂ってもんだぜ？」
　俺もシーナにそう返事を返す。
「それじゃかえろっか、マリィ」
「うん！」
　俺達は静かに瞳を閉じて、そして念じた。
　元の世界に帰りたい、と。

　薄い闇に包まれた静かな空間。
　カーテンの隙間から月明かりが差し込んでくる。
　俺達は二人ベッドの中で横になっていた。
「おかえり、マリィ」
「えへへ……ただいま、功司君」
　マリィはクスッと笑った。
　そしてキスを求めてくる。
　俺達はくちづけをして、そしてそのまま互いを求めあったのだった。