「ふぅ、ごちそーさま」
　俺は朝食を食べ終えると箸をテーブルの上に置いた。
「マリィ、おいしかったよ」
「どういたしまして」
　そしていつもの言葉にマリィは微笑む。
　今日のような休日はもちろんだが、最近は平日でも早起きするようになっていた。
　自分でも驚きではあったが、これもマリィの影響に他ならない。
　おかげで登校するときはいつものんびりと話ながら歩くのが日課になっていた。
　途中で瑞希や静乃が合流することもあったが、二人とも俺とマリィの仲を認めたらしく、口出しして来るようなことはなくなっていた。
　それほど、俺とマリィの仲は熱々のものだった。
　それでも時々不安になって俺はマリィに尋ねてみることがある。
「マリィ、向こうの世界に帰りたくなること、ないのか？」
　するとマリィは決まって微笑みながらこう、答えてくれた。
「いいのよ。あたし、功司君のために歌い続けるって決めたんだから」
　これを幸せといわずして、なにを幸せと言うのだろうか？
　それくらい俺達は、とても幸せいっぱいだった。
「ねえ功司君」
　食器を洗いながらマリィが話かけてきた。
「今日のお夕飯、何が食べたい？」
「そうだなぁ……」
　俺は新聞に目を落としながら答える。
「焼き鳥かフライドチキンなんて、どう？」
　マリィは少し怒った顔になりながら俺を睨んだ。
「もぅ！！そんなイジワル言うなら、おはようのキスしてあげないわよ？」
「冗談だって。でも今日はクリスマス・イヴだからなぁ……どっか外に食べに行かないか？」
「あっ、それ賛成！じゃあさっそくなに着てくか決めなくちゃね♪」
　俺の言葉に、マリィは嬉しそうに微笑む。
　いいなぁ、こーゆーのって……
　俺はそんなことを思いながら次のページをめくろうとした。
　ピンポーン
　と、玄関のチャイムが鳴り響く。
　俺とマリィは互いに顔を見合わせた。
「誰だ？こんな朝早くに……」
「あっ、いいよ功司君。あたしが出るから」
　立ちあがろうとする俺をマリィは制止すると、水道の蛇口を閉めてエプロンを着たまま玄関へと向かっていった。
「すっかりお母さんだな……」
　俺は頼もしげな眼差しでマリィを見送り、再び新聞に目を落とした。
　どうせ訪問販売の業者かなんかだろう。
　まぁ、マリィのことだからうまく応対してくれるさ。
「こ、功司く〜ん！」
　突然、玄関から俺を呼ぶ声が聞えてきた。
　マリィの声だ。
　何かあったんだろうか？
　俺は新聞をテーブルの上に置くと、そのまま玄関へとむかった。
　そして、その光景を目の当たりにして絶句した。
　玄関に、見慣れた二人の人物が立っている。
「オヤジ……オフクロ……」
　俺はそう、声を絞り出すのが精一杯だった。