空は既に目の映えるような紅く美しいオレンジ色に染まっていた。
　公園では、遊んでいた子供達が親に呼ばれて、名残惜しそうに家路へと帰っていく風景が見うけられたことから、時計を見なくても、もうそんな時間になってしまったんだなぁ、ということが理解できる。
　思ったより遅くなっちまったな……
　俺は家で夕食を作りながら待っているマリィのことを考え、歩を速めた。
　ちょっと本屋に寄ったまではよかったものの、ついつい立ち読みに夢中になってしまってこんな時間になってしまった、というわけだ。
　マリィ、怒ってなければいいけど……
　まぁ、これといって約束していたわけでもないから、別に気にする必要はないっていう話もあるが、それでも俺の帰りが遅くなると、時折悲しそうな表情を覗かせるからな。
　アレを見せられると心がしめつけられるように痛くなって、罪悪感に捕らわれるから、なるべくなら遠慮願いたいものだ。
「たっだいまー」
　家についた俺は、ドアをあけて中にはいった。
「あっ、おっかえりー」
　姿は見えないが、マリィの声がキッチンの方から聞えてくる。
　マリィが姿を見せないなんて……珍しいこともあるもんだ。
　まぁ、きっと料理でも作ってる最中なんだろうけど。
　案の定、俺がキッチンへといくと、マリィは油を扱っている最中であった。
「なに作ってるんだ？マリィ」
「見ての通り、ポテトフライよ」
　マリィは俺の方を振り向いて、にこやかに微笑む。
　その格好は黒のタンクトップ、ミニスカートといった軽装で、薄いピンクを基調としたエプロンを身につけている。
「ポテトフライかぁ。うまそうだな」
「『うまそう』じゃなくって『うまい』の！ちょうどできたから、味見してみる？」
「えっ？どうしよっかなぁ……うん、それじゃあ食べてみるかな？」
「オッケー♪」
　マリィは、煮立った油の中から細長く切られたスティック状の揚げたてのポテトフライを、油を切るための和紙をひいた容器の中に移すと、長さが短いのをひとつをとって咥えた。
「はい、功司君」
「はい……って……」
「味見するんでしょ？」
　マリィは自分の口元を指差すと、黙って瞳を閉じる。
「……………………」
　相変らずだなぁ……
　俺は黙ったまま、そのマリィの咥えているポテトを、口の中へといれた。
　チュ
　当然のように、唇と唇が触れ合う。
「んっ……」
　マリィの肩が少し震える。
　呼吸遣いが少し荒い。
　マリィ……
　俺はそのままマリィを抱きしめようとした。
　ピンポ〜ン
　突然、雰囲気をぶち壊すかのように玄関のチャイムが鳴った。
　慌てて俺達は離れる。
「んもう……誰よ！邪魔するのは」
　マリィはぷんぷんと怒りながら玄関の方を見た。
「そう怒るなって。ちょっと行ってくる」
　そんなマリィをなだめて、俺は玄関へと向かった。