ピンポンピンポン
　玄関に向かうまでの間、チャイムは絶え間なく鳴らされ続けた。
　まったく……一体誰だよ。
　そんなに鳴らさなくったって聞えるっていうのに。
「はいはい、今でるよ」
　おれは玄関の鍵を外してドアを開けた。
　途端に見知った少女が奇妙な服装で恐い顔をしながら家の中に飛びこんでくる。
「こんにちわ、功司君」
「み、瑞希？なんだその格好は？」
「どう？似合うかな？」
　瑞希は険しい表情をしながらも、そう尋ねてくる。
「似合うって……」
　俺は改めて、瑞希の服装を見なおした。
　何故か瑞希は静乃の専売特許と思われていた巫女姿をしている。
　静乃の神社でバイトでも始めたのかな？
　とりあえず、カワイイというコトだけは確実に言える。
　マリィもこんな姿になってくれたらなぁ……
　って、いかんいかん。
「ああ、とっても似合うよ」
「そう？よかった」
　瑞希は俺の言葉を聞くと、ホッと胸をなでおろしたようだった。
「で、どうしたんだ一体？そんなにおっかない顔して。なにか用でもあるのか？」
「当たり前じゃない。いい、功司君。落ちついて、よく聞いて。」
　瑞希はガシッと俺の肩を掴むと真剣な眼差しで俺の表情を見つめた。
「あ、ああ」
　瑞希のただならぬ様子に、俺もごくっと息を飲む。
「功司君……あなた、もうすぐ死ぬわ」
「……はっ？」
　瑞希の言葉に、俺は一瞬目が点になった。
「『はっ？』じゃないわよ！功司君、あなたには悪霊が取り憑いてるの」
「あ、悪霊？」
「そうよ。このままじゃ功司君の人生はメチャクチャになっちゃうから、お祓いしなくっちゃいけないの！」
　瑞希は語気を強めながら、訴えるように俺の肩をギュッと握って揺さぶる。
　悪霊……ねぇ……？
　そんなモノにとり憑かれる覚えはまったくないんだが……
　この瑞希の様子をみると、本気で俺のことを心配してくれてるようだし……
　でも、いきなり『もうすぐ死ぬわ』なんて言われてもなぁ……
「どうしたの功司君？」
　その時、戻ってこない俺を心配したのかマリィがキッチンから顔を覗かせた。
「あっ、春日さん」
　そして見知った顔を確認すると、驚いたように目を丸くして俺のそばへとやってくる。
「珍しいね。春日さんが遊びにくるなんて。……あれ？どうしたの？そんな恐い顔しちゃって」
「でたわね……功司君にとり憑く悪霊め。私が成仏させてあげるわ！！」
「えっ？えっ？えっ？？」
「覚悟！！破邪！！悪霊退散！！」
　事態がよく飲み込めずに慌てふためくマリィの額に、瑞希は取り出したお札を勢いよく貼りつけた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
　しばらく沈黙が流れる。
「……春日さん、いったいどーゆーつもりかなぁ？」
　マリィが肩を震わせながらそのお札をはがした」
「ど、どうして動けるの？ちゃんと除霊したはずなのに！！」
「あたりまえじゃない！！あたしは幽霊じゃないもん！！」
「そうだったの？それはしらなかったわ。今度から気をつけるわね」
　マリィをいなすように、瑞希がさらりと言ってのける。
　その表情からは罪悪感がゼロだということがはっきりうかがえた。
　マリィは眉間にシワをよせながら、プルプルと握りこぶしを震わせている。
　まったく……札を貼って動けなくなるって……
　マリィはキョンシーじゃないんだから。
　瑞希のやつ、一体何考えてるんだ？
「で、瑞希。一体なんのようなんだ？マリィをおちょくりにきたわけじゃないんだろ？」
「当たり前じゃない。私はそんな暇人じゃないわよ」
「……………………」
「どうしたの？急に黙っちゃって……」
「いや……なんでもいない……続けてくれ」
「そう？ならいいけど……」
　瑞希は少し納得いかないような表情を浮かべたが、すぐに気を取り直すと、どこに隠し持っていたのか、紙袋を取り出して、その中からビニール袋を取り出した。
「はい、マリィさんにお土産」
「あたしに？」
「ええ」
「あ、ありがとう……」
　とまどいながらマリィはそれを受けとって、中身を確認した。
　途端にマリィの表情が険しいものになる。
　一方、瑞希は小悪魔的な笑みを浮かべた。
「どう？おいしそうでしょ？その焼き鳥」
「や、焼き鳥だぁ！？」
　瑞希の言葉を聞いて俺も驚かずにはいられなかった。
　鳥肉といえばマリィのキライな食材のひとつではないか。
　瑞希のヤツ、なんだってそんなモノを……
「春日さん……あたしにケンカを売りにきたの？」
「あら？ひょっとして焼き鳥嫌いだった？ごめんなさいね。でも、好き嫌いはよくないわよ？」
　瑞希の言葉を聞いて、俺は頭を抱えずにはいられなかった。