すっかり秋も深まり、紅く色づいた落ち葉がちらほらと沿道を埋め尽くすようになり始めたある日のこと。
　俺とマリィは、いつものように家を出て学校へと向かおうとしていた。
「功司君、早く早く！」
「そんなに急がなくっても、学校は逃げたりしないよ」
「何言ってるのよもぅ！！あたし、日直なんだから！！」
「ああ、そうだったな」
　マリィにせかされるように俺は家を出る。
　まったく……マリィがこっちにきてからもうすぐ１年になるってのに、まったく変わらないな。
　まぁ、そこがマリィのかわいいところなんだけど。
　だから、マリィの日直に付き合うお礼というわけでもないが、今日は帰りに一緒に寄り道していく約束をしていたりする。
　どうせ俺のおごりになるだろうけど。
「それじゃあ功司君、行きましょう」
「ああ」
　マリィは俺の手をギュッと握り締めると、早足で家の門を通過しようとする。
　……そういえば……
「ストーップ」
　俺はマリィを止めた。
「どうしたの？」
「いやぁ、ちょっと郵便物を取るのを、昨日忘れててさ」
「郵便物なんて、帰ってきてからでもいいじゃない」
「そうはいかないよ。何か大切なものが入っていたら困るだろ？」
「もぅ……ちゃんと昨日のうちにとっといてよね」
　ぶつぶつ文句を言うマリィは、俺の手を離す。
「今度から気をつけるようにするよ」
　俺は郵便受けの中を調べた。
　そして一通の封筒を取り出す。
「なんだこりゃ？」
　俺はその封筒を不審の念を抱きながら眺めた。
　宛名には「牧村功司様」と書かれているが、住所は書かれていない。
　裏返しにしてみても、相手の住所も名前も書かれていない。
　このような郵便物は、郵便屋が届けることは、まず絶対にありえない。
　つまり、これは誰かが故意にうちの郵便受けに投函したことになる。
「どうしたの？」
「いやぁ、宛名しか書かれていない封筒が入っていたんだが」
「見せて」
　俺はマリィに問題の封筒を手渡す。
　マリィはそれをすかしたり振ったりしてから、軽くため息をついた。
「まーた瑞希の仕業ね。性懲りもなく」
　マリィはビリビリと封を開封し、中のものを取り出す。
　そして、表情を強張らせた。
「どうしたんだ？」
　俺もマリィが手にしているカードを覗き込む。
　そこには短く、こう書かれていた。

『拝啓　牧村功司様

　　　　　明晩、貴方の命を戴きに参上します

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　怪盗ルーナ』

「なによこれー！！」
　やや一瞬間をおいて、マリィがかなきり声を上げた。
　っていうか、大声を上げたいのは俺のほうなんだが。
「ちょっと冗談じゃないわよ！！あたしの功司君を、殺させてたまるものですか！！
　そりゃ俺も、殺されたくなんかない。だが、マリィは気づいていないみたいだ。
「功司君！！こうなったらお昼休みか放課後に、瑞希達を交えて緊急作戦会議よ！！」
　そして俺の腕をつかむや、急ぎ足で歩き出す。手に持っていたカードは、ポケットの中へ。
「功司君は、絶対あたしが守って見せるんだから！！」
　マリィは、端から見てもわかるくらい、使命の炎を燃やしていた。
　そして俺は、また厄介な騒動に巻き込まれる予感を感じずにはいられなかった。