怪盗騒動から数日後の放課後。
 俺達は花乃香に呼び出しを受け、図書室へと集まっていた。
 もちろん、みこピーも一緒だ。
「ふふふん。みんな、よく集まってくれたわね」
 花乃香は何故か嬉しそうにしながら、俺達が入ってくるや、図書室を強制閉室にしてしまった。
 で、俺達はあの時と同じように、長方形を机を囲むように座った。
「で、一体、何の用なんだ?」
「今日はみんなに、お礼を言おうと思って」
「お礼?」
「うん」
「牧村君達のおかげで、とっても充実した作品が書けたから」
 そして花乃香は、三冊の文庫サイズの本を、机の上に置いた。
「……はっ?」
 俺はそれを目にして、思わず目が点になった。それは他のメンバーも同じだったようで、一瞬沈黙が流れる。
「どう?なかなかいい出来だと思わない?」
 花乃香は頼んでもいないのに、嬉々と解説を始めた。
「まず一冊目。表の顔は普通の女子高生。でも一度脱税事件が起これば、令状片手に強制捜査に乗り込む『税務調査官春日ミズキチの事件簿』」
「…………」
 瑞希は無言のまま、どんな反応をしていいのか困っているようだ。
「そして二冊目。女子中学生ながら特別検察官を任命され、巨大な悪と戦っていく様子を描いた『白巫女検事奮戦記』」
「白巫女検事、ですか……?」
 静乃も困惑した様子で、花乃香と本を見比べている。
「で、三冊目。ひょんなことから命を狙われた教育実習生が、その教え子と禁断の恋に落ちていく様子を赤裸々に綴った『学園若女将の殺人旅情推理』」
「ちょちょっとそれって……!」
 みこピーは顔を真っ赤にしながら、挙動不審な態度を見せる。
「ちなみに、挿絵は矢城さんから紹介してもらった璃月さんって言う人に描いてもらったわ。あーあ、こんな素敵なイラスト描ける人が、うちの学園の美術部にもいればなぁ……」
 花乃香は大きくため息をつく。
 静乃の奴、なんて事を……
「ハイ」
 その時、マリィがむくれながら手を上げた。
「あたしのはないの?」
「マリィさんの?」
「うん。あたしだってあんなに頑張ったのに、なんで瑞希達のがあってあたしのがないのよ?」
 よほど自分のだけがないのが気に入らないのか、マリィは不機嫌な態度を露骨に見せる。
「心配しなくっても大丈夫よ」
 そんなマリィに、花乃香はにっこりと微笑んだ。
「マリィさんは三作品とも、黒幕って形で出演して貰ってるから」
 そしてとんでもない一言。
「く、黒幕ですって〜!?」
 案の定、マリィは眉を吊り上げる。
「素晴らしいわ、緋山さん!!」
「花乃香先輩、最高です!!」
 対照的に、瑞希と静乃は、作品を読みもしないのに絶賛する。
「え、えっと……」
 みこピーは相変わらずモジモジしたままだ。
「牧村君、次の騒動期待してるから!」
「緋山さん!!そんなことはどうでもいいから、あたしが黒幕ってどーゆー事!?」
「あなたには薄汚れた黒幕がよくお似合いってことよ、マリィ」
「まさに、普段の生活そのものですよね」
「え、えっと……」
 だんだんとヒートアップする口論を前に、俺は頭を抱えるしかなかった。
 そしてこの騒動の余韻は、1週間以上続くのであった。

(終わり)

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