「美角君！犯人確保してちょ！！」
　マリィに瑠羽奈の平手打ちが炸裂しようとしたその瞬間、静乃の大きな声が響き渡った。
　同時に、何かが瑠羽奈に飛び掛り、瑠羽奈を床に組み伏せる。
「えっ！？」
　一番驚いたのは、他ならぬ瑠羽奈であった。
　何が起こったのか、全くわからないといった様子でポカンとしている。
　そして、瑠羽奈の上にのしかかるように鎮座している人物を見て、俺も驚きの声を上げる。
「ゆ、唯芽！？」
「こ、こんにちわ、牧村さん」
　唯芽は何故か婦人警官の格好をしていて、落ち着かない様子で俺に会釈を返した。
「まったく、怪盗と名乗ってる割には、おみゃーさんも詰めが甘すぎていかんわ。わし達もいることを忘れてもらっては、困るんだなも」
　静乃は怪しげな名古屋弁を繰り出しつつ、えへんと胸を張っている。
　なんで唯芽がココに……なんて疑問は、もはや何も言うまい。
　静乃があんな格好してるってことは、当然部下が必要なわけだから、静乃が呼んだに違いない。
　おそらく、唯芽は榊田刑事か行天警部補のつもりであんなコスプレさせたのだろう。
　原作はどっちともスーツ姿だけどさ。
「美角君、例の縛り方で怪盗ルーナを拘束しておくように」
「は、はい！」
　静乃に言われるがまま、唯芽は何処からともなく紐を取り出すと、瑠羽奈を縛り始める。
　しかしその縛り方が……
「ちょ！？な、なんて縛り方してるのよ！？や、やめなさいってば！！」
「ご、ごめんなさいごめんなさい！！」
　抗議の声を上げる瑠羽奈に対して、唯芽は謝りながら、瑠羽奈を縛っていく。
　そしてあっという間に、亀甲縛りの瑠羽奈が完成した。
「ちょっと！！なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないわけ！？」
「あら？淫乱の貴方には、よくお似合いの格好よ」
　何故か瑞希が勝ち誇ったように、瑞希が胸を張る。
　何でそこまで偉そうな態度を取れるのか、俺には激しく疑問だ。
「さて……と」
　瑞希はコホンと咳払いをすると、落ち着いた口調で言った。
「そろそろ、今日のメインイベントに行きましょうか」
「はっ？メインイベント？」
「ええ……」
　瑞希は途端に真剣な凄みのある眼差しになると、マリィを睨みつけた。
「功司君との黒い交際費を計上した二重帳簿を、出してもらいましょうか」
「はぁ！？何言ってるのよ！！そんなものないもん！！それに、あたしと功司君は清い交際ですっ！黒くなんかありません！！」
「おみゃーさん、嘘はいかんでよ。往生際が悪いと、いかんわな」
「嘘じゃないもん！！」
「あら？この前購買で買ってきたパンのおつり１５円をくすねて功司君との交際費に還流したのは、何処の誰だったかしら？」
「おみゃーさん、窃盗は重大な犯罪だでよ。大それたことしたらいかんわ」
「１５円くらいいいじゃない！！」
「つまり、黒い交際費を計上した二重帳簿の存在は認めるわけね？」
「窃盗、傷害、強盗強姦、淫行、侮辱、名誉毀損、詐欺、暴行、公然猥褻、誘拐、恐喝、脅迫、殺人未遂……合計１３犯だでな。脱税も加わって、１４犯……おみゃーさん、役満だでよ。大悪党だなも」
「何よ！？その公然猥褻とか殺人未遂って！！」
「この期に及んでまだ言い逃れする気？そこにいる丹雫さんこそが、何よりの動かぬ証拠じゃないの。あの姿を猥褻と表現せずして、何をもって猥褻というのかしら？」
「あれはあたしがやったことじゃないもん！！」
「罪名及び罰状。被告人に対し、死刑を求刑する。刑法第８１条」
「意味わかんない！！」
　瑞希と静乃の矢継ぎ早の攻撃に、マリィは徹底抗戦する。
　もはや見慣れた光景だ。
　瑠羽奈なんか呆れてため息ついてるし。
　やっぱ俺が止めなきゃいけないんだろうか……
「あ、あのぉ……」
　と、その時。遠慮がちに、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「えっ！？か、かりん！？」
　その声の主に。俺は思わず声を上ずらせる。
　いつの間にか、かりんが瑠羽奈のそばに立っていた。
　かりんは至って普通の、制服姿だ。
　思わぬ人物の登場に、みなシンと静まり返る。
「え、えっと……」
　かりんはコホンと咳払いをすると恥ずかしそうにモジモジしながら口を開いた。
「こ、この度は丹雫さんが皆さんに多大なご迷惑をおかけして、まことに申し訳ございませんでした。私と唯芽ちゃんが責任を持って連れて帰りますので、どうか許してください。唯芽ちゃん、行きましょう」
「は、はい！」
　かりんの言葉に、唯芽も慌てて瑠羽奈を縛っている紐をつかむ。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
「あっ！！ちょっと待って神瞳さん！！行くならこの淫乱女も連れてってよ！！」
「かりん先輩！！丹雫さんじゃなくて、連れて行くのはこっちの人です！！」
　消え行くかりんたちの姿に、瑞希と静乃のむなしい叫びだけが響き渡った。