「ねぇ功司君。海に行きたいと思わない？」
　それはある夏休みの晩飯時。リビングで涼んでいたマリィの何気ない一言が、全ての始まりだった。
「海？この前行ってきたばっかりだろ？」
「行ってきただけじゃない！」
　俺の言葉に、マリィはムスッと膨れる。
「あたしは、功司君とひと夏の甘酸っぱい思い出が作りたいの！」
「甘酸っぱいねぇ……」
　俺は、１週間前にマリィ達と行った、海での出来事を思い返した。
　みこピーによる死と隣り合わせのドライブ。
　マリィ、瑞希、静乃の水着対決。
　そして、異世界から召喚したかりんを巻き込んでのビーチバレー大会参戦。
　極めつけは、決勝でのマリィの暴走によるノーゲーム決着……
　あまり甘酸っぱいとは言えないような思い出ばかりだ。
「ねぇ？いいでしょ〜？」
　甘えた仕草で、マリィは俺に寄り添ってくる。
「まぁ、確かに。思い出作りは必要だよな」
「それじゃあ……！」
「絶対ダメよ！！」
　突然リビングの戸が開くと、二人の闖入者が現れた。
　言わずと知れた、瑞希と静乃のコンビだ。
　瑞希はズカズカとリビングに入ってくると、マリィを指差した。
「マリィ、貴女シーナさんを愛しても愛しても愛し足りないくらい愛してるんだから、そんなに海に行きたいなら、シーナさんと二人っきりで行ってくればいいじゃない。そこでたっぷり、愛し合ってくれば？誰も止めないから。功司君のことは私達に任せて」
「そうです。お兄様は私達が責任を持って海へお連れしますので、マリィ先輩はシーナさんと海へ駆け落ちでもしてください」
「むー！！」
　瑞希達の言葉に、途端にマリィは不機嫌な表情に変える。
「あたしは功司君と二人きりで海に行きたいの！！ミズキチ達はついて来なくていいから！！」
「そうはいかないわ！私達の目が黒いうちは、絶対そんなことはさせないわよ！」
「そうです！瑞希先輩の言うとおりです！！」
　三人の間に、殺伐とした雰囲気が流れる。
　わずかの間流れる沈黙。
　そして三人同時に、低い声で笑い出した。
「よーくわかったわ……そんなにあたしと水着で勝負したいのね？」
「返り討ちにしてあげるわ」
「覚悟してください」
　そして三人は、互いを指差した。
「水着で勝負よ！！」