「あー……疲れた」
　バトルを終えたマリィは、砂浜の上に敷かれたレジャーシートの上にうつぶせの姿勢で寝転んだ。
「功司くん、日焼け止めオイル塗って」
　そして俺に、瓶を手渡す。
「仕方ねえなぁ……」
　俺はその瓶を受け取って、ため息をついた。
　マリィと二人きりなら、喜んで日焼け止めオイルを塗るんだが。
　しかし先程のを見てしまうと、ためらわずにはいられない。
　これが新たな闘争の火種になることは間違いないし……
　俺はそう思いながら瑞希をチラッと見た。
　しかし瑞希は、何故かニコニコと笑っている。
「？」
　俺は嫌な不安を抱えながら、瓶の蓋を開けようとした。
「あっ、待って功司君」
　すかさず瑞希が止めに入る。
「マリィさんにはこっちのオイルを」
　そして俺の持っていた瓶を取り上げ、代わりに自分の持っていた瓶を俺に渡す。
「……これは？」
　念のために尋ねると、案の定、瑞希はとんでもないことを口走った。
「サラダオイルだけど？」
「サ、サラダオイル！？」
「そっ。これをマリィさんに塗れば、立派な天然の照り焼きチキンが出来上がるじゃない」
「なっ……！」
　瑞希の言葉に、マリィは絶句する。
「駄目ですよ瑞希先輩。そんな意地悪しちゃ」
　しかし静乃が、その瑞希から渡された瓶を取り上げると、自分で持っていた瓶を俺に渡す。
「これを使ってください。お兄様」
「あ、ああ……ありがとう……」
　俺はそれを受け取ると、念のために静乃に尋ねた。
「ちなみに、これは？」
「はい。キャノーラ油です」
　静乃は嬉々とした様子で答える。
「キャノーラ油……」
「最近健康志向が高まっていますからね。サラダ油よりは、キャノーラ油の方がいいのではないでしょうか？」
「そうね……私としたことが迂闊だったわ」
　瑞希も納得した表情でウンウン頷く。
「全然よくない！！」
　しかし、標的にされたマリィにしてみればたまったもんではない。
　すぐさま起き上がり、瑞希と静乃に猛抗議する。
「ちょっとあんた達！余計なものを功司君に渡さないでちょうだい！」
「あら？媚薬入りのオイルを塗らせるような真似、この私がさせるとでも思った？」
「色仕掛けしか出来ませんもんね。マリィ先輩は」
「色仕掛けすら出来ないような人達に言われたくないですよーだ！！」
「言ってくれるじゃない……」
「……その暴言、許せませんね……」
　マリィと瑞希、静乃は低い声でフフフと笑う。
　そして。
『勝負よ！！』
　三人の声が高らかにハモる。
「いいわよいいわよ。貴方達最高！！」
　そして、その様子を花乃香が一心不乱にメモ帳に書き留める。
　結局こうなるのか……
　俺はため息をつかずにはいられなかった。
　そして１週間前と同じように、てんやわんやのうちに１日が終わるのであった。