「功司くぅん……朝だよぉ……」
なんだか遠くの方から声が聞えてくるような気がする。
誰だ……俺の安眠を妨害するやつは……
ゆさゆさゆさ
今度は体を揺さぶられる。
くそぅ……こうなったら意地でも起きてやらん。
「功司君ってばぁ……朝ご飯冷めちゃうよぉ……」
困り果てたような声。
うーんしつこいなぁ……
俺はゆっくり眠っていたいのに……
遅刻？
そっか……遅刻かぁ……
そろそろ起きないとマズイかもな……
……………………
…………グ〜……
ガバァッ！！
急に寒気が体全体に襲いかかってくる。
あまりの寒さに俺はたまらず目を覚ました。
「あっ、功司君おはよ」
目の前には沙夜の嬉しそうな顔があった。
「沙夜……？」
俺はしばらく呆然としながらその表情に見惚れていた。
「功司君？どうしたの？」
そんな俺を不思議に思ったのか、沙夜は困ったような表情を浮かべて尋ねてくる。
「いやぁ、なんで沙夜がここにいるんだ？……って思って」
「ひっどぉ〜い！！……ひょっとして功司君、まだ寝ボケてるでしょ？」
「寝ぼけてる？俺が？」
「そうだよぉ。休日だっていうのにこんなに遅くまで寝てるし、絶対変だよ」
「え……？」
俺は時計に視線を移した。
時計の針は午前９時をさしている。
休日に限って早起きする俺にとっては珍しいことだった。
「もうこんな時間になってたのか？」
「そうだよ。朝ご飯できてるんだから、早くしないと冷たくなっちゃうよぉ」
「朝食までつくってくれたのか？悪いな」
俺はベッドから抜け出ると、ふわぁっと大きなあくびをした。
まだ寝たりないような気がする。
沙夜が来てくれたってことで興奮してあんまりよく眠れなかったのかも知れない。
「功司君まだ眠いの？ひょっとしてあたし、余計なことしちゃったかなぁ？」
沙夜は少し悲しそうな表情を見せた。
「そんなことないぜ。でも……」
「でも？」
「もうちょっと優しく起こしてほしかったな」
「そっか……優しく、かぁ……」
そんな俺の言葉に、何故か沙夜は意味深な表情を浮かべながら考えこんでいるようだった。
翌朝、俺は夢をみていた。
河原にかりんちゃんがいる。
かりんちゃんはランスを構えて、誰かと対峙しているようだった。
その表情はとても険しく、ただごとではないことを物語っている。
「……これ以上、なにがしたいんですか？」
かりんちゃんが静かに口を開いた。
「……まだ盗んでいないものがあります」
対峙している相手がそう言葉を返す。
それは女の子だった。
漆黒の流れるような髪をなびかせながら不敵な笑みを浮かべている。
黄色いカチューシャがとても印象的だ。
「盗んでいないもの？」
「そうです。それは牧村さんの心（ハート）、です」
「！！」
かりんちゃんが戦闘態勢にはいる。
「牧村さんを、あなたの好きなようにはさせません！！牧村さんはわたしが守ってみせます！！」
「おしゃべりは……もう終わりです」
少女は手に持っていた黒い薔薇をかりんちゃんに投げつけた。
薔薇はまるで生命を与えられたかのように花弁が散開し、あっという間にかりんちゃんの身を包んでしまう。
「か、かりんちゃん！！」
俺は叫ぼうとしたが声がでなかった。
少女がゆっくりゆっくりと近づいてくる。
「う、うわああああっ！！」
俺は慌ててその場を逃げ出そうとした。
しかし、体もまるで金縛りにあったかのように動かなくなっていた。
「ダメだよぉ功司君……もう朝なんだから起きなくっちゃ」
少女はニッコリ微笑んで、そう言った。
いつのまにかその少女は沙夜になっていた。
しかもその姿はエプロンドレスだ。
「さ、目を覚まして……」
沙夜は静かにそう呟くと、瞳を閉じて唇を重ね合わせてくる。
温かい感触。
柔らかい感触。
なんだか妙に現実的な感覚だな……
「……？」
俺はパッと目を覚ました。
途端に飛びこんできたもの……それは沙夜の閉じられた瞳だった。
口元には温かく、柔らかい感触が……
「！！！！！！？」
「エヘヘ……おはよ」
俺の目が覚めたことを確認した沙夜は、恥ずかしそうに離れる。
「…………」
俺はむっくり起き上がった。
「よかった。ちゃんと目が覚めたんだね……あれ？どうしたの？」
「沙夜ぁ！！」
俺はたまらず沙夜をベッドに押し倒した。
「きゃっ！！」
沙夜は小さな悲鳴を上げる。
しかし、そんなこと知ったこっちゃない。
「だ、ダメだよ功司君。こんな朝早くから」
「朝早くでも構うもんか！！」
「あたしが構うよぉ〜。だって今日、学校だもん」
沙夜の言葉にピクリ、と動作が止まる。
「……学校？」
「そうだよぉ。今日から功司君と同じクラスなんだから」
「……そっか。そいえば今日から沙夜ってうちの学校にくるんだっけ……」
俺は渋々沙夜から離れた。
くそぅ……こんな日じゃなければ……
そう考えると自然と溜息がでてくるのであった。