からりと晴れ上がった空。
　吸いこまれそうなほど透き通った青さが目に染みる。
　吹きぬける早朝の木枯らし。
　しかし、不思議と寒さを感じない。
「なんだか緊張するなぁ」
　隣で沙夜が胸に手を当てながら呟いた。
「大丈夫だって。普段通りにしてればいいんだから」
「でもぉ……」
　沙夜ははぁ、っと白い息を吐き出す。
　まぁ、無理もないか。
　こっちの世界では沙夜は暮らしてからまだ間もないからな。
　そして今日、沙夜は聖遼学園に転入してくる。
　その記念すべき登校日に、俺達はこうして肩を並べて一緒に歩いている。
　いいもんだなぁ……
　俺はしみじみ、そう思った。
　ついこの前までこうなったらいいなと思っていたことが現実になるなんて、夢にも思わなかったからな。
「ま、心配するなって。いざとなったらちゃんとフォローしてやるから」
「ありがと。期待してるんだから」
　沙夜はにこっと笑った。
　俺達はそのまま他愛もない会話をしながら歩いていき、交差点にでた。
　見慣れた人物が、信号待ちをしている。
「よっ、瑞希。おはよ」
　俺はその人物、瑞希に声をかけた。
「あっ、功司君。おは……」
　瑞希は振り向いて、そして口をぽっかりあけたまま目を丸くした。
「どうしたんだ瑞希？」
　俺は声をかけるが瑞希は固まったまま動こうとしない。
　やがて瑞希は口を閉じると、何を思ったのか黙ったまま俺の頬を思いっきりつねった。
「いてぇ！！何するんだ！？」
　たまらず俺は大声をあげる。
「どうやら夢じゃないみたいね」
　瑞希は納得したかのように頷いた。
「そんなこと確認するために俺のほっぺたをつねったのか？」
「そうよ」
「だったら自分のつねろよ」
「いやよ。だって痛いじゃない」
「……………………」
　非難の声をあげる俺に、瑞希はさらりと受け流す。そして瑞希は沙夜を見た。
「ビックリしちゃった。功司君の隣に璃月さんが歩いてるんだもの」
「えへへ……おはよっ」
　沙夜は恥ずかしそうに挨拶した。
「おはよ、璃月さん」
　瑞希も微笑んで挨拶を返す。
「いつこっちの世界にきたの？」
「一昨日、かなぁ？」
「へぇ、そうなんだ。それで今、どこに住んでるの？」
「功司君の家だよ」
「何か変なことされなかった？」
「今のところは大丈夫だよ」
「そう。功司君ってスケベだから、璃月さん気をつけたほうがいいわよ」
「うん。心配してくれてありがと、春日さん」
　瑞希と沙夜はいきなり息投合していた。
　まぁ、あっちの世界ではいちおー顔見知りだったわけだし、わからないような気もしないでもないが。
　そんなことを話しているうちに信号が青に変わった。
　俺達は横断歩道を渡っていく。
「でもよかった。功司君が元気になって」
　瑞希が笑いながら話しかけてきた。
「はぁ？俺が？」
「うん。あのことがあってから功司君、元気がなかったから。悔しいけどこれも璃月さんのおかげ、かな？」
「そ、そんなことないよぉ」
　突然話を振られた沙夜は慌てて否定する。
「おい瑞希、変なこというなよ。沙夜が困ってるじゃないか」
「あら？私は幼馴染として功司君の様子を率直に述べただけよ？」
　瑞希はイタズラっぽく笑った。
「元気ない功司君誘惑してもつまらないけど、これで正々堂々と戦うことができるわね」
「お、おい瑞希……」
「あら？どうしたの？私にも間に割って入りこむ余地はあるんだから。だって私、璃月さんと違って真の幼馴染だもんね」
「はぁ？？」
「璃月さん、負けないわよ」
「あ、あたしだって負けないんだからっ！」
　瑞希の言葉に沙夜も闘志をメラメラと燃やす。
　うむー……なんだか初日から物凄いことになりそうだな……
　でも、ま、いっか。
　俺って楽観主義者だし。
　そして俺達は校門を潜り抜けた。
「それじゃあたし、職員室に行ってくるね」
「ああ、じゃあな」
「同じクラスになれるといいね」
「うん！」
　沙夜は笑顔をまきながらかけだした。
　そんな沙夜の後姿を、俺と瑞希は暖かく見守っていたのだった。