１限目の開始を告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。
　奈緒先生が教室が入ってくるなり、クラスの連中は慌しく自分の席に戻る。
「きりーつ！礼！！」
　そして日直の声が教室内に響き渡る。
　しかし、今日はいつもの授業風景とは違った展開を見せることになった。
「はい、突然ですが今日は授業にはいる前に、ホームルームをおこないます」
　奈緒先生の言葉に教室中がどよめく。
　こんなことは滅多にないことなので、皆不思議に思いながら憶測を飛ばしているようだ。
　俺と瑞希はピンと来て、そして互いの顔を見て笑った。
「はいはい、静かに。それじゃあ、転入生を紹介しますね」
　奈緒先生の言葉を合図に、廊下から一人の少女が教室へと入ってくる。
　教室中がざわつき始めた。
「ほら、静かに」
　コホン、と奈緒先生が軽く咳払いをすると、喧騒が収まる。
「えー、転入生の璃月沙夜さんです。沙夜さん、自己紹介お願いね」
「はい」
　奈緒先生の言葉に沙夜は教壇の一歩前に進みでた。
「転校生の璃月沙夜です。これからみなさんと一緒に勉学に励んで行くことになりますので、よろしくお願いします」
　そしてペコリと頭を下げた。
　男子生徒の連中はみな何か言いたそうな顔をしているが、授業中と言うこともあって我慢しているようだ。
　どうやら沙夜ののほほんとした口調がいきなり男子生徒の心を掴んでしまったらしい。
　みんな無駄なことを……
　俺はそう思いながら沙夜をみていた。
　沙夜はにはは、と困ったような表情を浮かべながら笑っている。
「それじゃあ、璃月さん、あの空いてる後ろの席に座ってもらえるかしら？」
「はい」
　返事をすると、沙夜は奈緒先生の言葉にしたがって後ろの席へとやってきた。
「よろしくね」
　そして隣の席の瑞希に挨拶をする。
　つまり、沙夜の席は俺の隣の隣だ。
「それじゃあ、授業を始めますよ」
　奈緒先生はそう告げると、教科書をめくって軽やかな手つきでチョークを動かし始めた。
　沙夜はというと、教科書を瑞希に見せてもらっている。
「大丈夫だな……」
　俺はホッと安心すると、そのまま授業に集中した。

　休み時間、やはり沙夜の周りには人だかりができていた。
　ほとんどが男どもだったが、女子も混じっている。
「ね、璃月さん、前の学校はどんなところだった？」
「璃月さんはどんなことが好きなの？」
「今度デートにいかない？」
　レポーター顔負けの矢継ぎ早の質問に、すっかり沙夜はタジタジだ。
　俺に向かって「助けて」という視線をおくっている。
「ホラ、あなた達。璃月さんが困ってるでしょ？」
　そこへ助け舟をだしたのが瑞希だった。
「功司君も黙ってないで。璃月さんと一緒に住んでるんだから、少しは助けてあげなさいよ」
　そして、言わなくてもいい余計な一言をさっと言ってのける。
「お、おい瑞希……」
　とめようとした時には、既に手遅れの状態になっていた。
　クラスの連中の眼差しが奇異のものに変わり、そしてマイクを持つフリをした男子生徒が、俺にいろいろとインタビューをしてくる。
　勘弁してくれよ……
　俺はそんなことを思いながら、瑞希を恨まずにはいられなかった。
　沙夜へのそれ系の質問はなくなったみたいだったが。