教室に入った俺達は、それぞれ自分達の席へついた。
「よぉ、牧村。お前だけズルイぞぉ〜」
　そして早速、待ち構えてたといわんばかりに田ノ中の奴が絡んできた。
「どうしてお前だけいつもオイシイ思いばっかするんだよぉ！」
「はぁ？オイシイ思い？」
「そうだ！春日さんという恋人がいながら璃月さんと同棲するなんて！僕にも璃月さんの手料理食べさせろよぉ！」
「あのなぁ……何回も言ってるだろ？沙夜と俺は一応親戚なんだから、一緒に住んでても不思議はないだろうが。それに、俺がいつ瑞希の恋人になったんだ？」
「そんなの決まってるじゃないかぁ！お前と春日さんが幼馴染だった時からだぁ！」
「……はぁ……」
　俺はため息をつかずにはいられなかった。
　沙夜が転校してきてからというものの、毎日のように田ノ中の奴が絡んできやがる。
　こーゆーバカはほっとくに限る。
　俺は無視して机の中に入れっぱなしになっている教科書を取りだし、机の上に置いた。
「……あれ？」
　俺はふと、妙な物を目にした。
　それは一通の便箋で、真っ白な表面にかわいらしい丸文字で『牧村さんへ』と書かれている。裏面を見ると差出人の名前がない代わりにしっかりハートマークで封がなされていた。
「……………………」
　俺は咄嗟にその便箋を机の中に隠した。
　そして恐る恐る、瑞希の方をみる。
　幸い、瑞希も沙夜も今のことには気がついていないようだ。
「ふぅ……」
　俺は気を落ちつけるため深呼吸を１回して、注意深く机の中からその便箋を取り出すと、封を開封した。
　中にはビニール袋に入ったクッキーと便箋１枚が同封されていた。
「えっとなになに……『親愛なる牧村さんへ。以前からあなたのことをお慕いしておりました。クッキーを焼いてみたので、よろしければ召し上がってください。』……かぁ」
　俺はその便箋にさっと目を通した。
　丸文字で短く、そう書かれている。
　差出人の名前らしきものはどこにもなかった。
　便箋の中を見ると、白い粉らしきものが付着している。
「うーん……差出人を特定できるものはどこにもないか……」
　困ったなぁ……と言うのが本音であった。
　女の子から好かれるというのは嬉しいことではあるが、俺には沙夜という立派な彼女がいる。
　だからこういうプレゼントを貰ったり告白されても正直、困るのだ。
「でも……やっぱ好意を無駄にしちゃマズイよなぁ……」
　俺はそんなことを思いながらクッキーを眺めていた。
「おい、牧村。なにしてるんだよ」
　そして運悪く、田ノ中の奴に見つかってしまった。
「なんだよそれ？さては璃月さんの手作り料理だな？僕にも食べさせろよぉ」
「あっ、おい？」
　田ノ中は無理矢理俺からクッキーの入ったビニール袋をひったくると、封を開けて食べてしまった。
「て、てめえ！！」
「うんうん、うまいうまい。牧村はいいよなー。毎日こんなものが食えてさ」
「……………………」
　俺は呆然と田ノ中のやつを眺めるしかなかった。
　まぁ、結果的にはこれでよかったのかも知れないが、相変わらず卑しいやつだ。
「はぁ……」
「どうしたんだ牧村……うっ！？」
　俺がため息をつくと、突然田ノ中のやつが苦しみだした。
「うぐぅぅぅぅぅぅっ！！」
　顔色が真っ青となり、呼吸も乱れている。
　そしてパタッと机の上に突っ伏したまま動かなくなってしまった。
「た、田ノ中？……田ノ中！！」
　俺は慌てて席を立ちあがると、田ノ中を揺さぶった。
　田ノ中は白目を向いたまま口から泡を吹いている。
「おい、しっかりしろ！！田ノ中！！」
「牧村君どうしたの！？」
「なにかあったのか！？」
　その様子を見ていたのか、福原と永易が駆けよってきた。
「功司君！」
「功司くぅん！」
　瑞希と沙夜も席を立ち上がる。
　一気に教室中が騒がしくなった。
「おい、永易！手を貸せ！！田ノ中の奴を保健室につれてくぞ！！」
「あ、ああっ、わかった」
　俺と永易は田ノ中を持ち上げると、そのまま保健室へと連れていった。