「ようこそ聖遼学園探偵団へ。今回の事件は、あたし達が扱って来た中でも、特に凄惨かつ残忍な事件として記憶に残ることになりました。１３年前に起こった悲劇の過去とは？そして謎の『かちにんちのに』の真の意味とは？果たしてあたし達は無事、犯人を捕まえて限定駅弁をゲットすることができるのでしょうか？それでは『血塗られた操り人形』後編、スタートです」
「……何言ってるんだ沙夜？」
「え？何って……もちろん、プロローグだよ」
「プロローグぅ？」
「そうだよ。こう言った方が絶対盛りあがるんだから」
　沙夜は嬉しそうに、そう言った。
　なんだかわからんが、どうやら久々に沙夜の『スイッチ』が入ってしまったらしい。
　こうなってしまっては、もはや俺には止めようがなかった。
　でも……プロローグって一体なんだよ？
　それが俺の率直な感想だった。
　まぁ、スイッチが入ってしまったのは沙夜だけではなく、この二人もそうなんだが……
「それじゃあ功司君、さっさと事件解決して『ソナタ』にコーヒーを飲みに行きましょ」
「『ソナタ』じゃなくって『ミルキーリップ』でケーキですよ、瑞希先輩」
「え〜？『虎屋』の懐中汁粉だよぉ」
　瑞希、静乃、沙夜は口々に自分の意見を口に出す。
「あのさ、ちょっといいか？」
「なぁに？」
「……これから、一体なにを始めるつもりなんだ？」
「えっ？」
　沙夜は驚いたように目を丸くした。
　そしてエヘヘと照れ笑いを浮かべる。
「ゴメンね功司君。まだ説明してなかったね」
「説明？」
「そうだよぉ。田ノ中君倒れちゃったでしょ？だから、あたし達で犯人を捕まえることにしたの」
「えっ？」
「『えっ？』じゃないよぉ。田ノ中君殺した人捕まえなくっちゃ、功司君が犯人にされちゃうんだから」
「ちょっと待て。田ノ中のヤツはまだ生きてるぞ？」
「細かいことは気にしちゃダメだよ。それよりも、犯人が次の犯行犯さないうちに早く捕まえないと。あたし達探偵団が結成された以上は好き勝手にさせないんだから」
「探偵団？」
　俺はその言葉を聞いて、ようやく３人のみょうちくりんな格好に納得がいった。
　３人とも制服ではなく、どこから調達してきたのか個性的な格好をしているのだ。
「ひょっとして、探偵クラブ結成したからそんな格好してるのか？」
「すっごーい。功司君、よくわかったね」
　沙夜が驚いたように目を丸くする。
　よくわかったね……って、当たり前だっつーの。
　しかし、それが誰の物まねであるかまでは、俺にも検討がつかない。
　沙夜は着物を着て眼鏡をかけているし、瑞希は羽織り袴といった昔の日本人の男性がしていたような格好をしている。静乃にいたってはタキシードにシルクハットときたもんだ。
　むー……わからん。
「……で、沙夜は一体誰のマネをしてるんだ？」
「あたし？あたしはもちろん桧垣千鶴ちゃんだよ」
「はぁ？」
　沙夜はクルリと一回転してエヘッと笑った。
　俺はよく知らないが、どうやらその人物も着物を着て眼鏡をかけているらしい。
「……で、瑞希は？」
「私？私は見ての通り金田一耕助よ」
　瑞希はクスッと笑いながらそう言った。
　そう言われれば……確かにこんな格好だったかなぁ……と、昔見たテレビのドラマのことを思い出す。
「それじゃあ、静乃は？」
「私はもちろん、アルセーヌ＝ルパンです」
「ほうほう、そうかそうか……って、それって探偵じゃないじゃん！」
「あれぇ？お兄様ご存知ないんですか？」
　静乃は偉そうな態度で胸をはりながら言った。
「確かにルパンは怪盗ですけど、ジム＝バーネットっていう探偵にも変装してるんです」
「だったらそっちのほうの格好すればいいじゃないか」
「だってジム＝バーネットって個性的な特徴がなにもないんですもの！どうせ同じですし、せっかくだからインパクトのある格好のほうがいいのかなぁ？なんて思って。あの……お兄様？」
「なんだ？」
「この格好……似合いますか？」
「えっ？」
　いつのまにか沙夜と瑞希も俺のことをジッと見つめていた。
「う、うん、３人ともよく似合ってるよ」
　俺は額に汗をかきながらそう、答えた。
「本当ですかお兄様？うわぁ♪私、嬉しいです」
「功司君がそう言うなら……悪い気はしないかな？」
「ありがと、功司君♪」
　３人とも嬉しそうにはしゃぐ。
　俺は苦笑しながら言った。
「しっかし……よく学園側が許可出したよな。こんなクラブ設立することに」
「えっ？許可なんて貰ってないよぉ？」
　沙夜がきょとんとしながらそう言う。
「だって、学園非公認のクラブだもん」
「な、なんじゃそりゃ！？」
「大丈夫だよぉ。功司君が部長さんなんだから」
「ちょ、ちょっと待てい！！何故そうなる！？」
「あっ、でもぉ……非公認なんだから『牧村少女探偵団』っていう名前でも大丈夫だよねぇ。所長は功司君ってことで」
「璃月さん、それいいかも。功司君しっかりしてないようで本当にだらしないから」
「これを機会に、お兄様にはより男らしくなってもらうって言うことで……」
「なんでだよ！？」
　俺の意見などおかまいなしに沙夜達は３人で盛り上がっていた。
　そしてそれから１０分ほど、俺はその様子を呆然と眺め続けることになった。