「大体事情はわかったけどぉ……功司君は、このクッキー贈って来た人に心当たりないの？」
「まったくない。そんな奇特なやつがいるのかと我が目を疑ったくらいだ」
「本当ですかぁ？お兄様、結構モテるから絶対心当たりがあると思うんですけどぉ〜」
「静乃までそんなこというのか？俺は殺されそうになったんだぞ？」
「……ということは、犯人は功司君を狙うストーカーね」
　瑞希の言葉にみんなの視線が集中した。
「ストーカー？」
「そうよ。功司君を影から見守り続ける女の子が勢い余って功司君に殺意を抱いたっていうわけ。どう？いい線いってると思わない？」
「確かに……説得力はあるようなないような……」
「というわけで、無事事件は解決よ。さ、打ち上げパーティーしに『ソナタ』に行きましょ」
「瑞希先輩、『ミルキーリップ』ですよ」
「『虎屋』じゃないの？」
「待てぃ！！なんでそうなる！？全然解決してないだろうが！！」
　俺はたまらず非難の声をあげた。
　３人は不服そうな表情を浮かべながら、再びなにかを考え始めた。
「とりあえず、功司君もこのクッキー食べてみることが事件の早期解決の近道だと思うんだけど……」
　そう言った沙夜の手には、いつのまにかそのクッキーが入った袋が握られていた。
「俺が？それ食べるの？冗談だろ、沙夜？」
「冗談じゃないよぉ。あたし達も食べるから大丈夫だよ」
「そうね。功司君へのプレゼントっていうのも気になるし」
「一応毒は入ってないみたいですから大丈夫ですよ？」
「ということで……これ、功司君の分だよ」
　沙夜は俺にそのクッキーを手渡した。
　おいおいマジかよ……
　俺はそう思ったが、どうやら食べるしか道は残されてないようだ。
「それじゃあ……いただきます……」
　俺はそのクッキーを口の中へと運んだ。
　３人娘も俺の動作を見届けてそれを食べる。
『！！』
　途端に俺達４人は表情をしかめた。
　岩のように硬くて、しかも苦い。
　それは御世辞にもオイシイと呼ぶには程遠いシロモノであった。
「なんなんだこの殺人級のマズさは……これ、ホントに食いものか？はっきり言って凶器だぜ」
「功司くぅん……本当に知らないのぉ？」
　沙夜が涙目になりながらそう尋ねてきた。
　瑞希と静乃も相当我慢してるようで、表情が強張っている。
「知らない。コッチが知りたいくらいだ！」
「本当に、本当に？」
「本当だって。第一、こんなマズイ料理……あっ……」
　その時、俺の脳裏に一人の少女の笑顔が浮かんできた。
　しかし、その少女は絶対に考えられないことであった。
　何故ならその少女は、この世界には存在しない人物なのだ。
「わかった！犯人は神瞳さんね！」
　瑞希がパッと顔をあげた。
「なるほど。確かにかりん先輩だったら納得がいきます」
　静乃もポンと手を打つ。
「そうだよねぇ……この味は神瞳さんのものだよぉ」
　沙夜もその意見に同意した。
　しかし、俺には納得がいかない。
「異議あり。かりんはこの世界の人間じゃないんだぜ？そんなことできるはずがない」
「甘いわよ、功司君」
　チッチッチと瑞希は指を左右に振った。
「璃月さんだってこうして存在してるんだから、神瞳さんがこの世界に実体化していても不思議じゃないわよ」
「そうかな？なんか納得できないんだけど……」
「そうなの。ふぅ……我ながら名推理だったわ。さ、それじゃ『ソナタ』に」
「『ミルキーリップ』です」
「『虎屋』だよぉ」
「だから、事件は全然解決してねえじゃねえか」
　俺の冷静なツッコミに、再び３人は不服そうな表情を浮かべる。
　俺……なんか悪い事したか？
　俺はそう思わずにはいられなかった。