俺達は図書室へとやってきた。
　沙夜曰くこの場所がもっとも情報収集の活動がしやすいと言うことらしいのだが……
　見渡す限り、カウンターに花乃香が一人座ってるだけで利用者は誰もいないようだ。
「なぁ、沙夜。もっと別の場所行ったほうがいいんじゃないか？」
「ダメだよ功司君。推理っていうのは、数多く存在する情報の中からこれだと思うものを拾捨選択繰り返して、それでパズルのピースとピースを繋ぎ合わせるように組み合わせていって、それで真実に辿りついていくんだから」
「ふーん。そういうものなのか？」
「そういうものなのぉ。それじゃあ、早速情報収集開始だよ」
「早速って……あっ、おい？」
　沙夜達は花乃香が座っているカウンターに歩み寄っていった。
　俺も慌てて後をついていく。
　花乃香はこの珍客の来訪に表情をしかめると、皮肉交じりの口調で言った。
「あら？サボり魔クン。図書室に来るなんて珍しいわね」
「悪かったな。サボり魔でよ」
「まあまあ。緋山さんも功司君も、喧嘩なんてよくないよぉ」
「そうよ。図書室で騒いだりしたら他の利用者に迷惑がかかるでしょ？」
「お兄様も花乃香先輩も、落ちついてください」
　そんな俺達に、沙夜達が割って入る。
「緋山さん、ちょっとききたいことがあるんだけどぉ……いいかな？」
「なにかしら？」
「最近、功司君に好意を抱いてる女の子がいたとか、そう言う話聞かない？」
「うーん……どうだろ？牧村君の噂はちょっと聞かないなぁ」
「それじゃあ永易君は？」
「えっ？永易君にそんな噂あるの？」
「うん。実は永易君かなりのプレイボーイなんだって。だから緋山さんも気をつけたほうがいいわよ。ね？璃月さん」
「うん……永易君はいい人だと思うけどぉ……恋の噂に関してはあまりいい話きかないなぁ……」
「あっ、それ私も知ってます。なんでもこの前永易先輩が中等部の生徒から告白されたとか」
「えっ？それ本当！？その話詳しく聞かせて！！」
「あっ、はい……」
　少女達は話題の本質をおもいっきリ脱線して恋の噂に花を咲かせ始めた。
「……コホン」
　俺がひとつ咳払いをすると、沙夜は思い出したように「ゴメンね」と言う視線をおくってきた。
「……で、話を戻すけど、本当に知らない？」
「残念ながら知らないわ」
「そっかぁ……」
　沙夜はそれを聞くと黙りこくってしまった。
「うーん……これは思っていたよりも根が深そうな事件のようね……難しいっ！！」
　瑞希は頭をガシガシかきむしる。
　おかげで瑞希の髪はぐしゃぐしゃになってしまった。
「お、おい、瑞希？」
「どうしたの？」
「どうしたのって……髪が……」
「心配いらないわよ。これって金田一耕助のクセだし、それに……」
「それに？」
　俺がこう尋ねると、瑞希は恥ずかしそうにうつむきながらどこからともなくブラシを取り出すと、俺にそれを手渡した。
「功司君がとかしてくれるから」
　そして上目遣いに俺をみる。
「……自分でやれ」
　俺は問答無用でつきかえした。
　瑞希は非難めいた眼差しを向けたが、ため息をつくとコンパクトを見ながら髪をセットしなおしていく。
　瑞希のやつ、始めっから狙ってやがったな……
　俺はそう確信せずにはいられなかった。
「……そうだ。最近、料理に関係する本借りてった人とかいなかった？」
「料理に関する本？」
「うん。例えばぁ……レシピとか図鑑とか黒魔術の本とかぁ……」
「『あっ、それなら福原さんが借りてったわよ』」
「ほら、功司君いまだよ。推理トリガー発動させて」
　途端に沙夜の表情が険しいものになった。
　しかし俺にはなんのことかさっぱりわからない。
「はぁ？なんじゃそりゃ？」
「んもう！すっごく今の情報重要なんだからぁ。だから二重カギがついてるんだよぉ」
「なんだかよくわからんが……重要な情報なのか？今のが」
「そうだよぉ。これで犯人はわかっちゃったんだからぁ♪」
「なんで今ので！？」
　そんな声をあげる俺をよそに、沙夜は満足そうにウンウンと頷いた。