「ようこそ牧村探偵事務所へ。今回の田ノ中君の殺人に端を発した連続凶悪殺人事件も、いよいよ真相が見えて……」
「沙夜、それはもういいから」
「え〜？まだ途中だよぉ？」
「途中でもいいから……」
「うん……わかった」
　沙夜は渋々セリフを続けるのをやめた。
　いつのまにか聖遼学園探偵団から牧村探偵事務所になってるし。
　しかも連続凶悪殺人事件ってなんだ？
　……いや、やっぱ深く考えるのはよそう。疲れるだけだもんな。
　で、俺達は教室に集まっていた。
　メンバーは俺、沙夜、瑞希、静乃、それに福原だ。
「どうしたの牧村君。こんな所に呼び出したりして」
「いや、その、なんだ……田ノ中をあんな風にした犯人がわかったみたいなんで」
「えっ？本当なの？」
　福原は驚いたように手のひらを口元に当てた。
「うん。犯人は……福原さん、あなたでしょ？」
　沙夜はビシッと福原を指差した。
「な、何を言い出すのよ！なんで私がそんなことしなくちゃいけないの？田ノ中君に恨みなんて持ってないのに！」
　当然の如く、福原は怒りだした。
「ほら、やっぱり違うんだって」
「いいえ功司君。璃月さんの推理、間違ってないと思うわ」
「か、春日ちゃんまで！！」
「福原さん、あなた功司君のこと好きなんでしょ？」
　瑞希は抑揚のない声でそう言った。
「でもあなたは功司君に告白する勇気を出せずに、それで手作りクッキーを便箋のなかにいれて、功司君の机のなかにおいたのね？」
「な、なにいってるのよ！！私が牧村君を好き！？そんなことあるわけないじゃないの！！第一証拠がないじゃない。言い掛りはヤメテよね！」
「いいえ、言い掛りではありません」
　静乃が１枚のメモ用紙を机の上に置いた。
「これは福原先輩がお書きになったものですけど、お兄様の机の中に入ってた手紙に書かれていた文字と筆跡が一致します」
「それからもうひとつ」
　瑞希が一冊の本を机に置く。
「福原さん、この本あなたが借りたわね？もう調査済みだから弁明のしようがないけど」
「福原……お前……」
「だって……だって仕方ないじゃない！！」
　突然福原は泣き出してしまった。
「牧村君に告白しようと思ったけど、勇気が出なかったんだもん！！」
「それであんなことをしたのね？」
「グスッ……うん……」
「でも、それが田ノ中君に食べられちゃったわけね？」
「まさかあんなことになるなんて……」
「あっ、そのことなんだけどぉ、田ノ中君だったら大丈夫だよ。クッキーが硬すぎて喉に詰まらせただけみたいだから」
「えっ？」
「でも、砂糖の代わりに重曹使うのはよくないですよ、福原先輩」
「私……私……」
　俺は嗚咽を漏らす福原の肩にポンと手をおいた。
「福原……その気持ちは嬉しいんだけど、俺他に好きな人がいるから……ゴメン」
「いいの……牧村君が好きな人がいるっていうのは知ってたから……」
　福原は涙を拭うと、ニッコリと笑った。
「牧村君こそ、女の子泣かせるような真似しちゃダメだよ」
　夕日の淡い光が教室の中にうっすらと差しこんでいた。

「いやぁ、今回は流石に俺もこたえたよ。モテる男ってのはつらいなぁ」
「なにバカなこといってるのよ。元を辿れば全部優柔不断な功司君がいけないんじゃないの」
「そうですよお兄様。少しは反省してください」
　ケーキを食べながら、瑞希と静乃が非難めいた眼差しで俺をみる。
「俺って優柔不断……かなぁ」
　俺は助けを求めるように沙夜に視線を送った。
「すっごくおもうよ」
　しかし沙夜は瑞希達の意見に同意しながらおいしそうにケーキを食べる。
　あの後、３人でじゃんけんして勝った瑞希が行きたがっていた店『ソナタ』に行くことになった。
　そして今こうして、４人でコーヒーを飲みながらケーキを食べている。
「だから功司君、ちょっと生活の乱れを調査しなくちゃいけないから泊まりに行くかも知れないけど……って、聞いてるの？」
「ん？ああっ、聞いてるよ」
「はぁ……全然聞いてないわね。矢城さん、それじゃあ今度功司君の家に遊びに行きましょ」
「あっ、それ賛成です、瑞希先輩」
「大歓迎だよ♪功司君の話とか、いろいろ聞きたいし……」
　沙夜達は俺のことで談義に華を咲かせているようであったが、俺の耳にしっかりはいってくることはなかった。
「俺ってそんなに優柔不断なのかなぁ……」
　俺はそんなことを思いながら上の空な気分で外の景色を眺めるのであった。