すっかり冬も深まってきた。
　おかげで外の世界が目が覚めると白銀一色に染まる、なんてことも珍しくない。
　俺と沙夜はと言うと、相変わらず熱々な暮らしを展開していたりするのだが。
　どれくらいかというと、瑞希曰く「熱過ぎて近づいたら火傷しちゃうわ」だそうだ。
　まぁ、それだけ平和だって言うことだし、沙夜もこの世界に慣れてきたってことだから俺としても歓迎すべき事なのだが。
　登校するのも一緒、授業受けるのも一緒、下校するのも一緒。
　うーん、なんて素晴らしいことなんだ。
　俺はとても幸せだった。
　今日もこの冬一番の冷えこみということで、沙夜がとても温まる鍋料理を作ってくれた。
　もちろん、それを沙夜と二人で食べたんだが。
　沙夜のつくってくれたスキヤキは何か一味違ってとてもおいしいものだった。
　思わず夢中で食べてしまったが、まぁ沙夜はとても嬉しそうだったから、結果オーライだったんだろう。
「雪……酷くなってきたね」
　食器の洗い物をしながら沙夜が話しかけてきた。
「ああ。今日はこの冬一番の冷え込みだっていってたからな」
　新聞に目をおとしながら俺もそう答える。
　まぁ、明日になれば明日が『この冬一番の寒さ』とやらになるだろうからあまり関係ないと思うけど。
「これからどんどん寒くなってくよね」
「まぁ、冬だからな。沙夜は寒いと何か困ることはあるのか？」
「あたし？うーん……」
　沙夜は手を止めると、何かを考え始めた。
「学校行くときに……困るくらい、かな？」
「確かに……滑りやすかったりするもんな。沙夜って結構トロいから心配だよ」
「え〜？あたしそんなにトロくないもん！」
　沙夜が非難めいた眼差しを俺におくってくる。
　そんな目をされても……本当のことをいってるんだけどな……
　などと思ってると、急に沙夜の顔が赤くなり始めた。
「でも……大丈夫だよね」
「何が？」
「だって……あたしが転んでも、功司君が抱きとめてくれるもん」
「うーん……どうだろ？努力はしてみるが、果たして沙夜のトロさに俺の俊敏さがついていけるかどうか……」
「ちょ、ちょっと！あたしそんなにトロくないってばぁ！！」
　沙夜が抗議の声をあげる。
「ははは。冗談だって。それよりも根本的な問題が」
「根本的な問題？」
「俺が沙夜を支えきれるかどうかという問題が……」
「！！」
　沙夜はこれを聞くや否や、ムッとした表情で俺を睨んだ。
「ひっどーい功司君！！あたしそんなに重くないもん！！」
「ははは、冗談だって」
「冗談でも言って良い事と悪い事があるよぉ！」
「いやぁ、悪い悪い。でもまぁ、万が一の場合も安心しろ。凍死しないようにちゃんと人肌で温めてやるから」
「……功司君のエッチ」
　沙夜はプイッと横を向くとそのまま中断していた洗い物を始めた。
　まったく、冗談が通じないやつだ。
　まぁ、そこが沙夜のカワイイところではあるんだが。
　さーて、何か面白い記事はないかなぁ……っと……
　ピンポーン
　その時、玄関のチャイムが鳴った。
　俺と沙夜は互いに顔を見合わせた。
「こんな時間に……誰だ？」
「宅配屋さん……とか？」
「まさか。こんな時間だぜ？」
「そうだよねぇ……」
　ピンポーンピンポーンピンポンピンポン
　その間にも早く出てくださいといわんばかりにチャイムが連打される。
「うっせーな……誰だ一体？」
「あっ、いいよ功司君。あたしが出るから」
　新聞をテーブルの上において立ちあがった俺を、洗い物が終わった沙夜が制止した。
「はーい、今行きまーす」
「あっ、待てよ沙夜。俺もいくって」
　沙夜のあとを俺もついていく。
「どちらさまですか？」
　沙夜は鍵を外して玄関の戸を開けた。
　途端に闇の中から冷たい吹雪が吹きこんでくる。
「キャ！！」
　沙夜は小さな悲鳴をあげながら少し後ろのめりになった。
「おっと。大丈夫か、沙夜？」
　俺がそれをトンと、受けとめてやる。
「あ、ありがとう功司君……」
「まったく……これくらいでよろけるなよ」
「えへへ……ゴメン」
　沙夜は恥ずかしそうに笑うと、気を取り直して前をみた。
　そこには無人の空間が広がっている。
「ねぇ功司君……誰もいないみたいだよ？」
「あれ？おっかしいな？」
　俺は靴をはいて玄関をでた。
「うわっ！！」
　そこで思わず腰を抜かしそうになる。
　俺達からは死角になっていた場所に、よく見知った二人の少女が頭に雪を積もらせながら神妙な面持ちで佇んでいた。
「み、瑞希に静乃……？」
「こんばんわ功司君……」
「こんばんわお兄様……」
　二人とも低い声で俺に挨拶をする。
　よく見ると、二人とも大きな鞄を抱えていた。
「な、なにやってるんだこんなところで？」
「とりあえずここじゃなんだから、あがってもいいかな？」
「あ、ああ……」
　俺が承諾するや、瑞希と静乃はまるで我が家にでも入るかのようにズンズカズンと上がりこむ。
「あっ、お客さんって春日さんと矢城さんだったんだ？」
「こんばんわ、璃月さん」
「こんばんわ、沙夜先輩」
　瑞希と静乃は軽く頭を下げると、そのまま家の奥へと突進していく。
「お、おい、瑞希、静乃？どこいくんだ？」
　慌てて俺は二人のあとを追った。沙夜もその後にくっついてくる。
　二人はキッチンにはいるや、おもむろに冷蔵庫を開けた。
　そして中身を確認するとウンウンと頷きあう。
「お前等……なにやってるんだ？」
「見ての通り冷蔵庫の中身をチェックしてるんだけど？」
「はぁ？」
「功司君の家に来たらまず冷蔵庫の中身をチェックしないとね。ね、矢城さん？」
「はい、その通りです」
　静乃も瑞希の言葉に同意する。
　コイツら……一体何しにきたんだ？
　俺にはその目的が皆目見当もつかなかった。