ピピピッ！ピピピッ！ピピピッ！
「うーん……」
　手を伸ばして目覚ましのアラームを止める。
「ふわぁ〜……」
　欠伸をしながら時計を確認する。
　午前５時。いつもより１時間早い。
　それというのも、昨日から降り続いている大雪が原因だ。
　雪かきしないと、雪に埋もれながら登校しなければならない、なんてことになりかねないから、せめて道だけは確保しておかないと。
　眠いけど……雪かきにいくか……
　冬の朝はとても寒い。
　だから後少しだけ暖かい布団の温もりに包まれていたい気分になるが、残念ながら今日はそうもいってられそうもない。
　しかし……気のせいか、今日はいつもより布団の中が暖かいような気がする。
　それが室内の気温の影響によるものなのか、それとも俺の「もう少し眠っていたい」という誘惑がそうさせるのかはわからないが、どっちにしろ今はありがた迷惑な話だ。
「それじゃあ……いこっかな……」
　俺は誘惑を断ち切って布団から出ようとした。
　と、横でなにかがモゾモゾと動く。
「！？」
　俺はその奇妙な光景に呆気に取られた。
「……なんだ？」
　手を伸ばすと、指先にぷにぷにした柔らかい感触が伝わってくる。
「なんだなんだ？？」
　俺は布団をめくりあげた。
「げっ！？」
　そして、そのまま凍りついた。
　そこには、気持ちよさそうに眠っている静乃の姿があった。
　そして俺の指先は、静乃のほっぺたに触っていた。
「し、静乃！？」
「ふわぁ……あっ、お兄様……おはようございますぅ……」
　俺の声に、静乃が目を覚まして寝ボケ眼をこする。
「……あっ……」
　そしてそのまま言葉を失い、頬をポッと赤らめた。
　何故そこで赤くなる！？
　俺はなんにもしちゃいないぞ！！
　第一、なんで静乃が俺の布団に寝てるんだ！？
　しかもよく見ると、何故かパジャマのボタンを掛け違えて着ているし。
　落ちつけ……落ちつくんだ……
　俺は何もしちゃいない。何もしちゃいないんだ！
　でも……こんなところを沙夜にでも見つかったりしたら……
「功司君、おはよ」
　その時、沙夜がノックもせずに俺の部屋へと入ってきた。
　そしてその光景を目の当たりにして呆然と立つ尽くす。
　ああっ、なんてタイミングの悪さなんだ！！
　第三者から見れば、真っ赤に顔を染めている静乃とみつめあってるようにしか見えないじゃないか！！
「お、おはよ……沙夜……」
　俺はから笑いをしながら沙夜に挨拶を返す。
「功司君……これって一体どういうこと……？」
　沙夜の瞳がだんだんと涙で潤み始めた。
「ま、待て沙夜！！俺はなんにもしちゃいない！！無実だ！！濡れ衣だ！！冤罪だ！！」
「酷いよ功司君……ウソつくなんて……」
「う、ウソじゃないって！！目が覚めたらいつのまにか静乃が隣で寝てたんだ！！」
「グスッ……それじゃあ、なんで矢城さんのパジャマのボタンが掛け違ってるの？」
「そ、そんなこと俺が知るか！！どういうことなんだ静乃！？」
　俺が静乃を睨むと、静乃は恥ずかしそうに起き上がった。
「えへへ……昨日の夜ってとっても寒かったですよね？」
「あ、ああっ……」
「だから私、お兄様に添い寝してもらおうかとおもって……」
「そ、添い寝だぁ！？」
「はい。あの……昔、お兄様がよくやってくださいましたから……」
「そ、そうだっけ？うーん……昔のことだから忘れちゃったなぁ……」
　そう言えば昔、そんなことがあったようななかったような……
　ダメだ。思い出せない。
　すると静乃は昔を懐かしむような眼差しで言葉を続けた。
「ほら、いつだったかあったじゃないですか。私が風邪を引いて寝こんでしまった時に、お兄様ってば『風邪を引いた時は人にうつすと治るんだよ』っておっしゃって添い寝してくれたことが」
「ちょ、ちょっと待て！！あの時は確か静乃の手を握って看病はしていたが、添い寝まではしてないぞ！？」
「あれぇ？ちゃんとよく覚えているじゃないですか。何が忘れちゃったですか？ど忘れ禁止法を適用しちゃいますよ？」
　静乃は悪戯っぽく笑う。
「事実を捏造（ねつぞう）するなよ……」
　俺はハァっと深いため息をついた。
　つまり、全て静乃の悪戯だったってことか。
　まぁ、静乃にしてみればカワイイ悪戯なのかもしれないが。
　俺が眠った後勝手に俺の部屋に入りこんで、そんでもって布団にもぐりこんだってわけだ。
「……納得してくれたか、沙夜？俺が無実だって」
「うん……ごめんね、功司君。疑ったりしちゃって」
　沙夜も笑顔を見せる。
「しっかし、静乃、お前いつからそんな変なことするようになったんだ？人の布団の中に忍び込むなんて」
「変なことじゃないです！」
　静乃は怒ったように反論した。しかしすぐに表情が崩れて赤くなる。
「私がこんなことするのは、お兄様にだけなんですから……」
「はぁ？」
「だって……お兄様の布団って暖かいし、それにお兄様の匂いがするから……」
　そして静乃はベッドに倒れこむと、布団を頭からすっぽりかぶってしまった。
　俺の匂いって……そりゃ、これは俺の寝床だからなぁ……
「お兄様、ごめんなさい……」
「わかったわかった。許してやるから。でもこんな紛らわしいこと、もう二度とするなよ？」
「……わかりました。でも……」
「でも？」
「じゃーん！私、見つけちゃいました！！」
　静乃はいきなり布団をはねのけて飛び起きた。
「げっ！？」
　俺はそれをみて表情が真っ青になる。
　静乃が持ってるのって……隠しておいたエロ本ではないか！！
「ベッドの下、探したらこんなものが出てきたんですけどぉ？」
「ばばば、バカ！！静乃！！なんてことを！！」
「この本って、女の人の、裸の写真がたっくさん載ってるんですけど……どうしてなんですか？」
「こ、こら！！中学生が読むもんじゃない！！」
　俺は慌てて静乃からエロ本を取り上げる。
「……お兄様のスケベ」
　静乃はジド目で睨みながら小さく呟いた。
「バ、バカ！！」
　俺はこうとしか言葉を返せなかった。
　しかし、今、はっきりした。
　やっぱり静乃は家捜しするために俺の部屋に侵入したんだ。
　すっかり油断した……もっと隠し場所を考えておくべきだった……
　などと後悔しても既に後の祭りだったりする。
　ああっ……沙夜……俺をそんな軽蔑の眼差しでみないでくれ……
「お兄様の部屋っておもしろいです。いろんなものが隠されてて……まるで伏魔殿みたい。念入りに探索すれば、もっとおもしろいものが発見できるかも……」
「や、やめてくれ静乃！！頼むからそれだけは！！」
「え〜？つま〜んな〜いの〜」
　静乃はつまらなそうに頬を膨らませる。
　いかん……これ以上静乃をこの部屋にいさせたら危険だ。
　ええい……こうなったら……！
「静乃！！雪かき行くぞ！！」
「え〜？私、まだ眠っていたいんですけど……」
「ダメだ！！ほら、さっさと行くぞ！！」
「で、でも私、まだ着替えて……」
「かまわん！！俺もこのままでやるから！！沙夜も行くぞ」
「う、うん！」
　俺は静乃の腕を引っ張ると、そのまま部屋の外へと連行した。その後を沙夜がくっついてくる。
「ぶぅ〜！！お兄様の意地悪！！」
　静乃は不満の声を漏らしたが、そんなの俺の知ったこっちゃない。
　とりあえず危険は回避できたな……
　俺はホッと胸をなでおろさずにはいられなかった。