１階に降りると、キッチンの方から芳ばしい味噌の香りが漂ってきた。
「沙夜、お前朝飯つくってる途中だったのか？」
「えっ？あたしつくってないよ？」
「えっ？」
　俺は沙夜の言葉に足をとめた。
　沙夜が作ってないんなら……一体誰が作ってるんだ？
　俺は一路、進路をキッチンへと変えた。
　その後を静乃と沙夜がついてくる。
　そしてキッチンに入ると、
「あっ、おはよ」
　瑞希が笑顔で出迎えてくれた。
「瑞希……なにやってるんだ？」
「なにって……見ての通り、朝食作りよ？」
　瑞希は当たり前だといわんばかりにそう返す。
　確かにテーブルの上には「ホントに朝食かよ！？」と目を疑いたくなるような豪華絢爛な料理の数々が並んでいた。
「これ……全部瑞希がつくったのか？」
「そうよ。ちょっと奮発しちゃった」
　瑞希が嬉しそうに微笑む。
　その姿は何故かメイド服だけど。
　しかし……ちょっとって程度じゃないぞ……これ……
「さ、ちょうど出来たところだから、みんな座って」
「はーい♪」
「はい、瑞希先輩」
　沙夜と静乃は返事をすると、テーブルの席についた。
「すごいな……俺も感嘆の息を漏らしながら着席する。
　とりあえず、俺と沙夜が隣あっていて対面に瑞希と静乃といった具合だ。
「それじゃあ、いっただっきまーす」
　４人全員手を会わせて食事の挨拶をした。
「春日さん、この八宝菜とってもおいしいよ」
「瑞希先輩、このだし巻玉子どうやって作ったんですか？」
　沙夜と静乃は口に料理を運ぶや、賛辞の言葉を並べる。
　さーて……俺はどれを食べよっかなぁ……とりあえず、このエビチリでも……
「待って功司君！！」
　俺がエビチリをとろうとすると、瑞希がその動作を制止した。
「どうしたんだ瑞希？」
「功司君には特別につくってある料理があるの」
「はい？」
　瑞希は立ちあがって席から離れると、何故か電子レンジの扉を開けた。
「なにやってるんだ瑞希？」
「功司君のためにつくったスペシャル料理を取り出してるの」
　瑞希はそこから丼を取り出し、俺の目の前に置いた。
「さっ、熱いうちに召し上がれ」
「熱いうちって……」
「それとも、私の作ったものじゃ功司君の口にあわないかな？」
「いや、そんなことはないと思うけど……」
　俺は曖昧な返事を返しながらそのドンブリをみた。
　どこからどう見てもラーメンだ。
　物凄い湯気が立ち上っているところをみると、作りたて、ということがわかる。
「……………………」
　朝っぱらからラーメンというのも……あまり気が進まないなぁ……
　でも……せっかく瑞希がつくってくれたんだし……
「それじゃあ、いただきます」
「はい、召し上がれ」
　俺は一口、その麺をすすった。
「！！」
　不思議な味わいが口の中一杯に広がっていく。
　なんだろうこれは……
　味噌でもないし……醤油でもないし……ソース？
「あのさ、瑞希……ちょっと聞いてもいいか？」
「どうしたの？」
「これって……何？」
「何って……見ての通り、ソースラーメンよ」
「ソ、ソースラーメン？」
　おいおい……ソースラーメンってなんだよ……
「それってさ、普通『ソースヤキソバ』っていわないか？」
「まぁ、そうとも言うわね」
「……………………」
　瑞希はケロリとした様子で答える。
　ああ……何が哀しゅうてこんなもん食べなくちゃいけないんだ……
「瑞希……俺、他の料理も食べたいんだけど……」
「それ食べ終わらなくちゃダメ、って言ったらどうする？」
「グレてやる」
　俺がそう答えると瑞希はクスッと笑いながら自分の席についた。
「いいわよ、功司君。冷蔵庫の中みたときソースヤキソバ見つけたから、ちょっと悪戯したくなっちゃって。ゴメンね」
「まぁ……別にいいけどさ」
　俺は気を取りなおして瑞希の本命の手料理に箸をつけた。
「……どうかな？」
「すっごくウマい」
　少し緊張した面持ちで尋ねてきた瑞希に、俺は素直にそう答えた。
「よかった」
　瑞希の表情から笑みが零れる。
　実際、沙夜の料理とタメをはれるくらい、瑞希の料理は美味いものだった。
　これなら飯が何杯でも食えてしまいそうだ。
「いやぁ、本当にウマい。でも瑞希、なんでこんなに豪勢なんだ？」
「理由、知りたい？」
「ああ、もちろんだ」
「祝賀会よ」
「祝賀会？」
「そっ。『ミズキハウス』の建築祝い」
「はぁ？なんだそりゃ？」
「もぅ……私と功司君の愛の巣に決まってるじゃない」
「ぶっ！！」
　瑞希の言葉に、俺は思わず飲んでいた味噌汁を吐き出しそうになった。
「功司君、汚いよぉ〜」
「お兄様、お食事はもっと行儀よく食べなくちゃダメですよ？」
　沙夜と静乃が非難めいた眼差しで俺を見る。
「バ、バカ！瑞希が変なことを言うからだ！！」
「あら？私は別に変なことなんか言ってないわよ？」
　瑞希はニコッと笑った。
「功司君、悪いけど璃月さんのニャンニャン写真はゲットさせてもらったわ」
「ななな、なんだと！？」
「あるはずない……って言いたいんでしょ？存在することがバレるとやばいもんね。だからその存在を知っていることすら否定せざるを得なかった……語るに落ちたとは、まさにこのことね」
「バ、バカなこと言うな！！一体、どこにあるんだ！？」
「庭にある私の家の中に飾ってあるわ」
「庭！？」
　なんで庭に瑞希の家があるんだ！？
　俺はそう思ったが、それよりもそのあるはずのない写真とやらの正体をつきとめ存在を抹消することが先決だと感じた。
　ひょっとしたら沙夜が記念にと隠し取りしていたかもしれないし……
「庭だな！？」
　俺は立ちあがると、一目散に玄関を目指して駆け出した。
　もちろん、目指すのは庭だ。
　一体瑞希のやつ……何をやらかしやがったんだ！？
「あっ！待ってよ功司君！！」
「お兄様！！食事中に席を離れるなんて、行儀が悪いですよ！！」
「功司君、そんなに急がなくっても大丈夫よ」
　そして、俺の後を３人が追いかけてきた。