「なんだこれは……？」
　俺はその物体にただただ呆然とするしかなかった。
　昨日までは普通の庭だったはずなのに……
　昨日まではなにもないところだったのに……
　いつのまにかプレハブが建ってるし。
「どう？驚いた？」
　瑞希が悪戯っぽく笑っている。
「瑞希……なんだこれは一体？？」
「決まってるじゃない。私が集めた都市研究会の部費を還流して建てた『ミズキハウス』よ」
「ミズキハウスって……」
　そんなに胸をはって言われても困るんだが。
　まさに開いた口がふさがらないとは、こういうことをいうんだろうな……
　部費をそんな超私的なことに流用するなよ。
　それ以前に、人ん家の庭にこんなもん建てるなよな……
「中に入りたいんでしょ？」
「あ、ああっ……」
「さっ、どうぞ。でも靴はちゃんと脱いでね」
　瑞希がまず先頭でプレハブの中に入っていく。続いて沙夜と静乃が。
　そして俺が一番最後にその中に足を踏み入れた。
「なんじゃこりゃ……」
　そして俺は、またまた言葉を失った。
　床にはカーペットがしかれ、中央にはちゃぶ台が置かれてあり、勉強机やクローゼットまで設置されている。
　いつのまにこんなもん運び込みやがったんだ？？
「功司君、ようこそ私の家へ」
「私の家って……」
「ゆっくりくつろいでいってね」
　瑞希はまるで我が家にいるかの如く、くつろいでいる。
「春日さんもそういってることだし、ゆっくりしていこうよ功司君」
「ゆっくりもなにも……俺、頭が痛くなってきた……」
「風邪ですかお兄様？学校お休みになられるんですか？」
「いや、そういう意味じゃなくって……」
　沙夜も瑞希も、この環境にすっかり順応している。
　ひょとして……俺がおかしいのか？
　いや……そんなことはない……そんなことは……
　それよりも、今は当初の目的を達成しないと……
「……で、どこにあるんだ？その写真とやらは？」
「そこに飾ってあるじゃない」
　瑞希は壁を指差した。
　そこにはひとつの額縁が飾られている。
　その中に１枚の写真が納められていた。
「……はっ？」
　俺はその写真をみて、再び言葉を失った。
　その写真には左に静乃、中央に沙夜、そして右に瑞希が映っている。
　しかしその格好が問題で、何故か三人とも猫の格好をしていた。
　しかもポーズまで決めている。
「なんだこりゃ？」
「だから言ってるじゃない。璃月さんのニャンニャン写真」
「これが？？」
「まぁ、正確には私達のニャンニャン写真、ですけどね」
「は、はぁ……」
「恥ずかしいから……功司君には見せたくなかったんだけど……」
　静乃も沙夜も、恥ずかしそうにそう解説を付け加えてくれる。
　これがニャンニャン写真、ですか……
　まぁ、ある意味間違っちゃいないけど……
　ある意味ホッとしたような、嬉しいような……
「なに見惚れてるのよ？」
「えっ？」
「そんなに気に入ったの？その『ねこねこ戦隊ニャンニャンニャン』の写真が」
「ま、まぁ……気に入ったというかなんというか……」
　俺は言葉につまってしまった。
　ねこねこ戦隊ニャンニャンニャンって……
　なんだよそりゃ一体！？
　うーん……よくわからんが……カワイイから許すべきなのか？
　沙夜のこんな姿滅多に拝めないし……
「よかった。功司君、気に入ってくれたみたいよ」
「エヘヘ……頑張ったかいがありました」
「功司君……エッチ」
　瑞希達は恥ずかしそうに笑う。
　まぁ……とりあえず、ヨシヨシとしなくちゃいけないのかな？
「それじゃあ、これからパーティーよ」
「あ、それ賛成です瑞希先輩」
「うわぁ、とっても楽しみ♪」
「ちょ、ちょっと待てい！」
　瑞希の言葉に、俺は即座に異を唱えた。
　やはりと言うか、瑞希が不機嫌になる。
「なによもう。せっかく盛りあがってる気分に、水をささないでよね」
「さすもなにも、学校があるだろうが」
「あれ？功司君知らないの？」
　瑞希がキョトンとしながら、そう言った。
「今日、学校お休みだってこと」
「な、なにぃ！？そんな話聞いてないぞ！？」
「当然よ。だって急に決まったんだもん」
「きゅ、急にって？」
「『ミズキハウス』落成記念日として、私達４人はお休みなの」
「それってつまり、サボりじゃねーか！」
「もう、細かいこと気にしすぎ。矢城さん、璃月さん、やっちゃって」
「はい、瑞希先輩」
「うん、わかったぁ」
　突然、静乃と沙夜が俺の両腕をガシッと掴んだ。
「な、なにするんだ！？静乃！？沙夜！？」　
「ごめんなさいお兄様」
「功司君も盛りあがろうよ」
「盛りあがるって……うぷっ！？」
　言葉の途中で、瑞希が隠し持っていたウォッカを口の中に流しこまれる。
「はい、功司君ゴックンして」
　ゴックン
　……しまったぁ！！瑞希の言葉につい条件反射的に！！
　ああっ……世界が回っていく……
　おまけに気分が昂揚していくぞ……ははははは……
「オイ、お前ら！！今日はとことんまで、飲み明かすぞー！！」
　その言葉を最後に、俺の意識はぶっ飛んでしまった。

　そして翌日……
　ズル休みした俺は奈緒先生から呼び出しをくらってこってりしぼられた上、なけなしの生活費から『ミズキハウス』なるプレハブの解体撤去費用まで払わされるはめになるのであった……