４時限目が終わっての昼休み。
　俺達は屋上でシートとお弁当を広げていた。
　俺の隣には優季が。
　右斜め隣にはこのみ、対面にはタマ姉、そして優季の左斜め隣には雄二が鎮座している。
　このみもタマ姉も、何故か弁当持参だ。
　特にタマ姉は重箱を持ってきたので、俺はもちろん、優季も目を丸くしたくらいだ。
「ねぇねぇタカくん。この玉子焼き、このみが焼いたんだよ？食べて食べて」
「今日はタカ坊のために、より腕を揮ったつもりよ。ほら、このエビフライなんかおいしそうでしょ？」
「タカくん、あ〜んして」
「はいタカ坊、アーン」
　そして　二人してやたらと俺に料理を勧めてくる。
　っていうか、二人とも優季に対して激しく闘志を燃やしてないか？
　当の優季はというと、苦笑しながらこの光景を見守っている。
　まぁ時折、優季も俺に料理を食べさせてくれるわけだが……
　思惑が外れたのか、雄二の奴はふてくされている。
　そんなこんなで、それなりに和気藹々とした雰囲気の中で行われた昼食会も中盤に差し掛かった頃。
　おもむろに、タマ姉が口を開いた。
「……で、貴方達は一体どこまで進んだ関係なのかしら？」
「！！」
　タマ姉の不意討ちに、俺は思わず玉子焼きを吐き出しそうになってしまう。
「だ、大丈夫ですか貴明さん！？」
　優季が背中をトントンと軽く叩き、優しくさすってくれる。
「だ、大丈夫だから……」
　俺はプラスチックのカップに入った麦茶を一気に飲み干した。
「で、実際のところどうなのよ？」
　タマ姉はおろか、このみまでもが興味津々といった様子で、俺の顔をじっと見つめている。
　うーむ……なんて答えたらいいんだ……
　チラッと横を見ると、優季も考え込む仕草をみせている。
　が、すぐに口を開いた。
「そうですね。新幹線でガーラ湯沢まで行った関係……かな？」
『！？』
　俺達は絶句する。
　が、俺と他の三人では、どうやら意味合いがまったく違ったらしい。
　俺的には「何わけわからないこと言ってるんだ！？」ということなのだが、他の三人はそれをまったく違う解釈で受け止めてしまったようだ。
　真っ先に口を開いたのは雄二だった。
「お前たち……もうそんな、行きつくところまで行った関係なのかよ！？」
「信じらんない……あのタカ坊が……」
「タカくんって、オトナなんだね……」
　タマ姉とこのみと次々と口を開き、三人は唖然とした様子で、俺達のことを見ている。
「……えーっと、何かとんでもない勘違いされてるような気がするんだけど……」
「さあ？どうなんでしょう？」
　優季は恥ずかしそうに笑っていた。
「でも、貴明さんとの関係は事実ですし……」
「てぃ！！」
　俺はすかさず、優季のおでこを指先ではじく。
「あつっ！！」
　優季は額を押さえながら、涙声で呟いた。
「酷いです、貴明さん……」
　酷いって言われてもなぁ……とんでもないこと喋りそうだったし、今。
　……ん？
　視線を移すと、タマ姉たちがさらに驚きの表情を作っていた。
「タカ坊が女の子に手をあげるなんて……」
「タカくんが女の子にそんなことするの、このみ初めて見たかも……」
「あの女嫌いの貴明が……」
　３人の視線が、俺に集中する。
「えーっと……」
　俺は優季をみた。
「貴明さんには、いつも酷いことをされてます」
　しかし優季は、先程のお返しとばかりに、とんでもないことを口走る。
　でもその表情は和やかに微笑んでいる。
「これは、ますます二人の馴れ初めを聞きたくなってきたわね」
　タマ姉が意味深な目つきをしながら、俺達のことを見つめている。
「えっと、話せば長くなるんですが……」
　俺が口を開く前に、優季が積極的に説明を始めた。
　小学校の時に、離れ離れになったこと。
　この高校に転校してくる事になって、とても楽しみにしたこと。
　でも、俺は事故死して既にいなくなっていたこと。
　そのため、未来からやってきて、俺の命を救ったこと。
　正直、こんな話を聞いても、笹森さんくらいしか信用しないと思う。
　しかしタマ姉たちは、優季の話に熱心に耳を傾けていた。
　そして優季が話し終わると、しきりにコクコクと頷いた。
「なるほどね……草壁さんはタカ坊の命の恩人、ってわけね」
「まぁ、そういうことになるかな？」
　俺も適当に相槌を打つ。
　実際、優季は文字通り身体をはって俺を助けてくれたわけだし。
　その内容を詳細に話せといわれれば困るが……
「あの交通事故の話の裏には、こんな真相が隠されてたんだね」
　このみも信じられないといった様子で、俺達を見ている。
　まぁ俺も、この話を聞く側だったら間違いなく信じられないな。
「ねぇ、タカ坊。一つ聞かせてもらってもいいかな？」
「なんだい？」
「もし、私が草壁さんの立場だったとしたら……今タカ坊の隣にいるのって、私だったのかな？」
「えっ……それは……」
　寂しげに言うタマ姉の言葉に、心がズキンと痛む。
「それはないな」
　しかし、俺の替わりに雄二が即答した。
「姉貴にはおしとやかさのかけらもねえもん。せめて優季ちゃんの１/１０でも、姉貴におしとやかさがあれば今ごろ貴明をオトせてたってのに……ぐあああああ！！」
　雄二の言葉が終わらないうちに、タマ姉は雄二にアイアンクローを決めていた。
「わ、割れる！！額が割れるぅ！！」
「おだまり！！」
　タマ姉は雄二を一括すると、意味新な表情を浮かべながら俺達をみた。
「私、決めたわ」
「決めた、って何を？」
　聞いちゃいけないような気がするが、それでも一応尋ねてみる。
　するとタマ姉は、やはりとんでもない言葉を口走った。
「略奪愛って言うのも、悪くないわよね」
『！？』
　俺達はタマ姉のとんでもない言葉に、俺達は互いに顔を見合わせる。
「こ、このみだって負けないんだから！！」
　そこへ、このみの緊急参戦発言。
「そうだぞ貴明！！ガサツな姉貴はお前にくれてやるから、優季ちゃんを俺に……がああああ！！」
　雄二もどさくさにまぎれてとんでもないことを口走るが、途中から悲鳴にかわる。
「え、えっと、私も、負けません！！！」
　優季も困惑表情を浮かべながら、恋人死守宣言を行う。
「もう好きにしてくれ……」
　俺はこのカオスな状況をどうやって終息させるか頭がいたくなった。
　しかし同時に、こう呟かずにはいられなかった。
「タマ姉、このみ……ゴメンな」
　そんなこんなで、騒がしい昼休みは、あっという間に過ぎて行った。