見上げれば雲ひとつなく、眩しいくらいに真っ青にそまっている広大な空。
　時折吹き抜ける早朝のそよ風がとても心地よく、気分を清々しくしてくれる。
　これで隣にいるのが優季だったら最高なんだが……残念なことに、俺の隣にいるのは優季ではなくこのみだ。
「えへへ……」
　しかもさっきからニヤニヤしっぱなしだし。
「なぁこのみ」
　俺はたまらずこのみに尋ねた。
「お前、さっきからなんでそんなにニヤけてるんだ？」
「えっ？だって」
　このみはこれ以上ないという笑顔を作って、とんでもないことを口にした。
「今日、タカくんが彼女紹介してくれるんでしょ？」
「はあっ！？」
「タマお姉ちゃんが昨日電話で言ってたよ。『タカ坊がとびっきりの美人な彼女を作って私達に紹介するみたいだから、このみも失礼がないようにね』って」
　なんだそりゃ！？
　俺が優季をタマ姉やこのみに紹介！？
　いや、そりゃいつかはしようかなぁって思ってたこともあったけどさ。
　いくらなんでも、向こうからそんなこと言ってくるとは思っても見ないわけで。
　くっそー雄二の奴、おもしろ半分にタマ姉に言いやがったな。
　なんて口が軽い奴なんだ……
　やがて優季との待ち合わせ場所につくと、そこには優季の他に、タマ姉と雄二の姿もあった。
　どうやらこちらの行動パターンも完全に押さえられてしまったらしい。
「あっ、タマお姉ちゃーん」
　このみはタマ姉を見かけるなり、大きく手を振ってパタパタと駆け寄っていく。
「おはよう、このみ」
　タマ姉はこのみに朝の挨拶をすると、俺に意味ありげな視線を送ってきた。
　その表情はこのみ同様、とてもニヤついたものになっている。
「おはよう……」
　俺は、苦笑しつつ、いつもの朝の挨拶をした。
「おはようございます、貴明さん」
　優季も朝の挨拶を返すが、やや困惑した表情だ。
「お・は・よ・う。タカ坊」
　優季とは対照的な表情を作っているタマ姉の横で、雄二が軽く口を開いた。
「すまん貴明。姉貴にバレた」
　雄二は悪びれる様子もなく、さらりと言ってのける。
「いやぁ、俺としてはだな、お前が優季ちゃんを姉貴に紹介してくれるまで生暖かい目で見守ろうと思ってたんだがな、つい口が滑って……ほら、お前のために俺が姉貴に拷問されるなんて、割りに合わないだろ？優季ちゃんを俺にくれるってならともかく……ふごぉっ！！」
　途端に、タマ姉の肘鉄が雄二のみぞおちを直撃する。
　詭弁しか口に出来ない、哀れな奴の末路……と思いたいところだが、それは同時に更なる驚異が俺に向けられていることを意味していた。
「タカ坊……」
　タマ姉は俺を見るや、ニコッと笑った。
　背筋に悪寒が走る。
「どうして、彼女が出来たことをタマお姉ちゃんに報告しないのかなー？んー？」
「あ、いや、それは俺も時期がきたら紹介しようと思ってたけどさ」
「ホントかなー？ウソついてるようだったら、お姉ちゃん本気で怒っちゃうよ？」
「ううう、ウソなんか言ってないって！！な、なぁ、優季」
「は、はい」
　タマ姉の迫力に圧倒されて、優季も思わずコクコクと頷く。
「……まぁ、いいわ」
　タマ姉はコホンと軽く咳払いをすると、まるで圧力をかけるかのように、重い一言を口にした。
「お昼休みが楽しみね」
「そ、そうだね……あはは……」
　俺と優季は互いに顔を見合わせて、苦笑するしかなかった。
　さようなら、俺の楽しい記念日……
　俺は心の中で、大きく溜息をついた。