「るんるーん♪」

　シェラは陽気に鼻歌を歌いながら、軽やかな足取りで、真新しく舗装されたアスファルトの坂を下っていった。所々工事の看板やスコーンが設置されているが、それがなければハイキングにでも来ているような気分にさせられる。

「本当になにもないところなんだね」

　シェラは、改めてそう感じずにはいられなかった。

「見通しが甘いからこうなるのよ。本当はベッドタウンになるはずらしいんだけど……」

「それ、何十年後の話なの？」

「わからないわ。一応、基礎工事らしきものはやってるんだけど……」

「あれがそうなんだ……」

　シェラはレイアの指差す方角を見て頷いた。

　ブルトーザーやらショベルカーがひっきりなしに動いている。

　しかし、鉄骨剥き出し状態の投げ出された中途半端な工事跡や更地がいくつもあったことを考えると、どの程度までそれが真剣に行われているのか、疑問を感じずにはいられなかった。

「安中市民の人達のための駅って感じがしないね。環境破壊もいいところだよ」

「確かに、ね。少なくとも、手軽に利用できるっていう駅じゃないわね」

「１日に数本しか止まらないなんて、八高線よりも不便じゃないか」

「わたしにそんなこと言われても……」

「ご、ごめん。ボク、つい……」

「気にしなくってもいいわよ。それにしても、空気がキレイだわ」

　レイアは空を見上げた。シェラもつられるように空を見上げる。

　雲１つない晴天。

　青々とした大海が、どこまでもどこまでも広がっていた。

　隣を流れる川のせせらぎが、清涼な気分に一服を添える。

「ハイキングにはいい場所かもね」

「そうね。自然を再確認するには最適な場所かも」

　二人はそのまま談笑しながらさらに歩を進めていった。

　ぽつんぽつんと点在する民家、放置された建設現場、たまに往来する自動車。

　駅舎から一歩出たとたん、まるで別世界にでも迷いこんでしまったかのような光景がそこには存在している。

　やがて、対向車線上に１つの案内表示板が高々と掲げられていた。

「あっ、標識だ」

「一体なにかしら？」

　二人は急ぎ足になって案内表示板を通過すると、振り向いてそれを見た。

『！！』

　途端に二人は無表情になり、そして互いの顔を見合わせる。

「レイア……これって……」

「どうやら長い道のりになりそうね……」

　直線距離にすれば３００Ｍくらいしかないだろう。

　しかしその案内表示板にはしっかりと『安中榛名駅１ｋｍ』と書かれていた。