「う〜……疲れたぁ……」

　シェラはぼやきながら肩を上下に動かした。

「文句言わないの。あなたが行こうって言い出したんだから」

「こんなに歩くって知ってたら、ボクあんな駅で降りなかったよ」

　シェラは自分のとった行動に、心底後悔をした。

　着替えやお土産が目一杯詰まった旅行鞄をさげながら、いつつくとも知れない安中駅を目指して、歩道なき道をひたすら歩き続けなければならない。

「はぁ……疲れたぁ……もう歩くのイヤだよぉ……」

「ほら、口を動かす暇あったら足を動かす」

「ねぇ、魔法使って空飛んでいかない？そっちの方が楽だと思うんだけど」

「ダメよ。そんなインチキ使っちゃ」

「だって……」

「そのための御目付け役なんだから、わたしは」

「そうなの？」

「シェラ一人だったら絶対なにかしでかすって杠葉さん、心配してたわよ？」

「そんなことに気を使わなくってもいいのに……」

　もうどれくらいの距離を歩いただろうか。

　坂を下ってはまた上がり、延々と続く水田風景や林道を通りぬけ、黒磯駅行きのバス停を目印に休む暇なく歩き続ける。

　おかげで肩の感覚がなくなりつつあった。

「絶対帰ったらチョコレートパフェ食べるんだぁ〜！！」

「そうそう、その調子よ」

「うん！ボク、頑張るよ！！」

　シェラとレイアは互いに励ましあいながら先へ先へと進んでいく。

　やがて、再び目印になりそうな案内表示板が対向車線にたっていた。

「レイア……あれ……」

「はぁ、はぁ……ようやくゴールが見えてきた、かな？」

　二人は重い足取りでその案内表示板のところにいき、祈るような気持ちでそれをみた。

「れ、レイア……ボクもうイヤだよ……」

「わたしだって嫌よ……けど……」

「け、けど……？」

「もうここまで来た以上、歩いて行くしかないようね」

「やっぱり……」

　シェラはガクッと肩を落とす。

　その案内表示板には『安中榛名駅５ｋｍ』と書かれていた。

　ここまで来るのに要した時間は１時間。

　二人ともへとへとであったが、休まずに歩きつづけるしかなかった。

　それはバスが１５分前に既に行ってしまい、後１時間またなければいけないこともあったが、それよりもいつのまにか空一面が灰色に染まっていたからに他ならなかった。

　そして、目的地である安中駅が見えてくる気配は、全くなかった。