「れ、レイア……」

「落ちついてシェラ。ここで焦っちゃダメよ」

　レイアはシェラに冷静になるようひたすら言い聞かせた。

　あれから歩き続けること数十分。

　二人はいつのまにか市街地にはいっていた。

　が、同時に迷子になっていた。

　それもそのはず。安中駅への案内表示板がないのだ。

　ここまで騙し騙しやってきた二人であったが、ついにゴールを目の前にして立ち止まざるを得なくなってしまった。

　左右に別れる２つの道。

　おそらくどちらかが安中駅で、どちらかがまったく見当違いの方向に行ってしまうのであろう。

「ボク……右だと思うな」

　シェラが重い口を開いた。

「どうして？」

「ボクの直感がそう言ってるから」

「わたしは左だと思う」

　レイアはシェラと正反対の意見を出した。

「どうして？」

「直感よ」

　レイアもシェラと同じように答える。

「じゃあ、どっちかの直感が間違ってるんだね」

「そういうことになるわね」

　お互いに不敵な笑みを浮かべると、勢いよく腕をだした。

『ジャンケン・ポン！！』

　シェラが出したのはチョキ、一方レイアがだしたのはパーであった。

「わーい！ボクの勝ちだね」

「ううっ……勘が鈍ったかなぁ……」

　レイアはタメ息をつくと、少しだけ元気になったシェラの後をとぼとぼついていった。

　もちろん、シェラは自分の信じた右へと曲がっていく。

「もうすぐゴールだね♪」

「そうね……」

「どうしたんだよレイア？もっと元気ださなくっちゃ」

「う、うん……」

　レイアの元気ない返答を聞きながら、シェラも半信半疑になる。

（誰かに聞けないかなぁ……）

　シェラはそんなことを思っていた。

　と、そこへ丁度、地元の人が通りかかった。

「あの、すみません。ちょっと道を尋ねたいんですけど……」

「はーい！なんでしょうかー？」

「ポ、ポーレル？な、なんで？？」

「お婆さん役の人が例によっていないんでー、代わりにわたしが代役務めることになりましたー」

　ポーレルはいつもの元気な調子でいった。

「安中駅への道ですねー？それは逆方向で、向こうをずーっとくだっていくんですよー」

「ええっ！？向こうなの！？」

「そうでーす。こっちはー、どこに行くのか私も知りませーん」

「そ、そんな……」

　シェラはガクッと肩を落とした。

　せめてもの救いは被害を最小限にとどめることができたことだろうか。

「シェラ、ホント見事な勘だったわ」

　レイアはため息をつきながら言った。

「まぁ、おかげで目的地への道のりとか、いろいろと助かることになりそうだけど」

「そうですよー。後もう少しでゴールなんですからー、頑張ってくださいねー」

　微笑みながら去ろうとしたポーレルの腕を、レイアはガシッと掴む。

「あのー……レイア、さん……？」

「まさか、このまま出番が終わり、だなんて思ってるんじゃないでしょうね？」

「え？……ほ、他になにかあるんですかー？」

「もちろんよ。わたし達の荷物運びっていう大役が残っているわ」

「え……えー！？そんなの台本にのってないですよー！？」

「問答無用！！こんな楽な役だけで終わると思ったら大間違いよ！！」

「そうだよ！！ボク達がこんなに苦労してるのに、ポーレルだけこんな楽できるなんて、納得いかないんだから！！」

「わ、私のせいじゃないですよー！！老人虐待ですー！！」

「何言ってるのよ！！あなたまだ１７歳じゃない！！」

「ポーレル……覚悟！！」

「ひぇーーーーーーーーーーーーーん！！」

　小さな町に、老人……もとい老人役の少女の悲鳴がこだました。