あさまは予定通り上野駅を通過していった。

　いつもは上野駅に停車し、そこで大量の人が乗車してくる。しかし、この新幹線は違った。

「うーん、やっぱ快適っていいなぁ」

　シェラは車窓から流れ行くホームに佇む人波の景色を眺めながら、そう思わずにはいられなかった。

　上野を過ぎた辺りで、運転室から初老の車掌がでてきて、１号車へと行こうとする。

　しかしデッキには複数の人が乗車しており、進むためにはどうしても人とぶつかりながら、という形になってしまう。

　そのため車掌は独り言のように呟いた。

「はい、すみません。ちょっと通してください」

「あ、オルドル部長！！ごめんなさい！！原稿まだできてなくって！！」

「またかね？まぁ、君の上司はキム君だから私がどうこう言ってもしょうがないが……って、違うじゃろうが」

「あっ、そうでした。切符ですよね？えーっと……」

「ああっ、切符も見せなくっていいから」

「えっ？だって……」

「混雑してるときの新幹線の乗車切符は切符のチェックを省略するんじゃよ」

「へぇ……知らなかった」

「覚えておき給え。……って、随分とアドリブが入ってしまったようじゃが、話を本線に戻さないと」

「ああっ、また、湖さんに怒られる……」

　シェラは頭を抱えた。最近台本通り事が進行した試しがないのが彼女の悪い癖ではあるのだが。

「それじゃあ、失礼しますね」

　車掌はそのまま１号車へと姿を消していく。

「ふぅ……快適だなぁ……」

　シェラは流れ行く景色に視線を移しながらつくづくそう思った。

　このまま誰も乗車せずに、目的地までたどり着いてくれれば。

　シェラはそう思わずにはいられなかったが、大宮で見事彼女の期待は裏切られることになるのであった。

　大宮駅のホームには上野駅以上の人の姿があり、新幹線の到着を今か今かと待ちわびていた。

　そして新幹線が停車し、ドアが開くと駅員の指示にしたがって次々と中へ雪崩れ込んでくる。

　あっという間に乗車率は１５０％を越えてしまった。

　まるで山手線のラッシュアワーを彷彿とさせるような混雑ぶり。

「……やっぱり１本ずらせばよかったかも……」

　ギュウギュウ詰めの車内の中で、シェラはかなり後悔していた。

　そして、新幹線は再び走り出した。