しばらくしてから、オルドルとキムの二人は戻ってきた。

　そして運転室の中に姿を消してしまう。

　シェラはそっと聞き耳を立ててみたが、中の会話はまったく聞こえてこなかった。

「一体どんなこと話してるんだろ……」

　こうなると、ますますシェラの好奇心は掻き立てられていった。

　不謹慎なことこの上ないが、滅多にできない体験だ。

　中でなされている会話すら気になってしまう。

　すると、まるでシェラの願いを叶えるかのように、一人の女性が一号車から最後尾デッキに向かって歩いてきた。

「あの、この中に駅長さんいますよね？」

「うん。いるよリリラス。でも、『駅長さん』じゃなくって『車掌さん』だよ」

「仕方ないですよ。実際に『駅長さん』っておっしゃられてたんですから」

「まぁ、確かにそうなんだけどね」

　リリラスは車掌が中にいることを確認すると、激しくドアをたたいた。

「すみません！すみませーん！！さっきの急病人見た看護婦なんですけど、ちょっと開けてもらえますかー！？」

　リリラスの言葉に反応するかのように、運転室のドアが開かれる。

　リリラスは中へと入っていった。

「あの急病人なんですけど、なんとか意識は取り戻したんですよ。それで、先生が言うには、大丈夫じゃないかって言うんですけど……」

「そっかそっか。いちおー、軽井沢に緊急停車して救急車を手配しようかと思ったんだけど……佐久平までもちそうかな？」

「えっ？」

「佐久平に救急車を手配しておくから。患者をそこでおろして運んでもらうのが一番いいと思うんだけど」

「あの……佐久平まで……って、何分ですか？」

「うーん……３０分くらい、かなぁ？」

「３０分！？」

　リリラスは素っ頓狂な声を上げた。

「３０分も持たない？」

「うーん……３０分ですか……大丈夫かなぁ……なんとか……」

　そして、しどろもどろな返事を返す。

　その様子には、いかにも自信がなさげと言った感じであった。

「いいのかなぁ……臨時停車しなくっても……」

　シェラは少しガッカリした気分になって心の中で呟いた。

　しかし物は考え様で、佐久平まで運べば佐久総合病院という立派な病院が近くにあるが、軽井沢には大きな病院がない。安中榛名にいたっては論外だ。

　そしてリリラス、オルドル、キムの三人は再び運転室を出ると、その急病人の元へと向かった。