「あっ！？」

　ホームで待つこと１０分。

　立ち食いそばを食べていたイリス達の前に、その『臨時列車』がやってきた。

　緑色に塗られたボディーカラーに『風っこ滝桜号』と言う文字が書かれている。

　中はトロッコ列車と言うのか、二席の椅子の間に木のテーブルが置かれ、食べ物や飲み物を置くことが出来るようになっている。

　ダルマストーブも置かれ、いかにも『イベント列車』という雰囲気を漂わせていた。

「シェラ！！あんたもたまには役に立つのね！！」

　先程とはまったく逆の言葉をシェラに言うイリスは、ひどく上機嫌だ。

「『たまには』は余計だもん｣

　シェラはプイっと横を向く。

「そんな駄々こねないの。さ、乗りましょ」

　イリスは立ち食いそばを食べ終わるや、物珍しさに引かれて先程まで自分が否定してた列車に乗り込んだ。

「あっ、待ってよ」

　シェラも慌てて後を追いかける。

　２両編成のその列車には、他の列車にはないとても魅力的な雰囲気を持っていたのだ。

「ここに座って、花見とかするのね」

　イリスは椅子に腰掛け、しきりに感心しながら物珍しそうにあたりをぺたぺたと触る。

「この列車、窓がないのね。今日よりも雨が酷い日とか、どうするのかしら？」

　イリスは少し雨が降り出している空模様を眺めながら、不思議そうに言う。

「その窓枠にそって、ビニール下ろすんじゃないの？日よけみたいに」

「ああ、なるほどー」

　シェラの指摘に、イリスはポンと手を叩いて頷いた。

　窓のない列車に乗るが初めての二人は、いつもよりもはしゃいでいる。

　そして出発時刻が来て、列車は動き出した。

　が――

「さむーい！！」

「冷たいよぉ！！」

　最初こそよかったものの、モノの５分もたたないうちに二人は音を上げた。

　風がビュウビュウと吹き込んでいて、冷たい雨が肌にあたる。

　やはりこのような日には、乗車に向かない列車のようだ。

　二人は荷物を持つと、全部ビニールが下ろされている隣の車両に移った。

「やっぱこーゆー列車は天気のいい日に限るわ」

「うん、そうだね」

　二人はそんなことを話ながら、くつろいだ。