急行アルプス号は闇夜の中を進んでいき、篠ノ井で停車すると、そのまま信越本線に別れを告げて篠ノ井線へと入っていった。

　当然、星明りに照らされた外の様子ははっきりと見えるはずもなく、シェラはいきなり暇を持て余してしまう。

「あーあ、退屈だなぁ……」

　夜の景色はそれはそれでなかなか乙なものであるが、食料に余裕のないシェラはその景色を純粋に楽しむことはできなかった。

　列車旅行の醍醐味といえば、まず最初に駅弁を食べることをモットーとしている食いしん坊さんには、ちょっとした罰ゲームなのかもしれないが。

「こんなことなら何か買ってくればよかった」

　シェラはボーっとしながら車窓を眺める。

　車内販売がないことを知ったのは、電車に乗ってからであった。こんな時間に車内販売などあるわけがなく、当然といえば当然なのだが、シェラは急行旅行の経験の甘さからか、準備を怠っていたのである。

　早朝、深夜の列車乗車の際には車内販売がないから食料確保は基本中の基本、といった鉄則を忘れてしまったがゆえの悲劇といえよう。

　シェラが急行に乗ったのは、今回が２種類目。初めて乗った急行能登は信越本線一部区間廃止、第三セクター移行に伴い、運行ルートが変更されてしまったために、上田から乗車することはもう適わない。

　それでも、特急あさまや白山のように廃止の憂き目に遭わなかっただけでも、まだ幸運なほうと言えよう。

「列車はただいま姨捨を通過しました〜。この駅は普通列車ですと、いったんバックしてホームに入っていきまーす」

　シェラはぼんやりと呟いてみる。

　やがて松本に到着し、中央本線へと入った。