松本を出発した急行は、そのまま東京へと向かって東に移動をしていた。

　車内は相変わらずガラガラで、車掌が切符の点検に来たこと以外は、さして変わった様子もない。

「退屈退屈退屈だなぁ〜」

　シェラは座席にもたれかかってみたり、横になってみたり、何かメモをとってみたりするが、長続きしない。

「こんなことならＭＤウォークマンとかもってくればよかったー」

　そんな文句を言ったところでどうにもなるわけではない。

「あーあ、早く八玉子につかないかなー」

　シェラは足をぶらぶらさせながら夜の風景を眺める。

　やがて列車は甲府についた。

「やっと甲府かぁ……」

　シェラはため息をつき、背筋をゆっくりと伸ばす。

　しかし……

「あ、あれ？」

　急行は、いつまでたっても出発する気配は、一向にない。

「……どうしちゃったんだろう？」

　不安になったシェラはポケット時刻表をとりだし、時刻を確認した。

　甲府着――１時○○分。

　そして出発は……

「２時〜！？」

　そこには無情にも、１時間以上先の時刻が記されていた。

　つまり、急行アルプスは甲府で約１時間の停車時間を設け、時間調整を行うことになる。

「何このダイヤ！？ふざけてるの！？担当者は学習ルームに来てよね！！」

　シェラはぷりぷり怒りながら文句を言うが、そんなもの確認しなかった自分がいけないに決まっている。

「……騙された……完全にハメられた……」

　シェラは愕然とするが、もうこうなってしまってはどうしようもない。

　とりあえず、シェラは駅のホームに出ることにした。

　夜空の広がる甲府駅のホームは人影などもちろんなく、寒風が吹き荒れている。

「ボクって不幸……」

　小さく呟いたシェラは自販機でホットのコーンポタージュを購入する。そして一気に飲み干した。

「こんなに停車時間あるなら改札抜けてコンビニに行かしてくれないかなぁ……」

　シェラはチラリと階段の上を見やるが、ここで降りるわけではないので、そんなことができるわけがない。

「聞いてないよ〜！」

　シェラの悲痛な叫びが、夜空に吸い込まれていった。