午前８時５０分。シェラとイリスの二人はしなの鉄道上田駅の３番線ホームにいた。

　今回の目的は、日ごろの疲れを癒すため、どこかの温泉に行くことにある。

　近場の鹿教湯や別所でもよかったのだが、ヘソ曲がりなシェラ達はあえて遠くを選ぶことにした。

　そこで白羽の矢が立ったところが、以前行ったことのある湯田中だったのである。

　９時１７分までは旧急行妙高として走っていた快適な快速列車が来るのであるが、シェラ達は一刻も早く温泉地に着くため、一本前の普通列車で行くことにしたのである。

「うううっ……」

「どうしたのシェラ？トイレ？」

　落ち着かない様子を見かねたのか、イリスがシェラに声をかけた。

「だって、イリスは平気なの？」

「どうして？」

「またあーんなことやこーんなことさせられるかもしれないんだよ？いくら湖さんに酷いことしたからって、いくらなんでも陰険過ぎるよ」

「うーん、湖が陰険だってのには同意だけど、今回はそんな心配いらないんじゃないかしら？」

「どうして？」

「だって、背景が白いもの」

「あっ……」

「つまり、これが掲載されてるのは通常書庫。そんな心配杞憂杞憂。シェラってばホントにエッチなんだから」

　イリスは大きくため息をつく。

「それじゃあ湖だって体が持たないわよ？まぁ、似た者同士でいいのかもしれないけど」

「ボク、そんなにエッチじゃないもん！！それに湖さんの娼婦でもない！！」

「はいはい。それじゃあそーゆーことにしておきましょうか」

　シェラは力いっぱい否定するが、イリスは軽く聞き流す。

　やがて小諸方面からやってきた鈍行に乗り込むと、長野を目指して電車は動き出した。