二人はとりあえず、温泉街の中をまわって歩いてみることにした。

「やっぱ外湯めぐりの醍醐味は、街中にある地図を頼りに行き当たりばったりな行動をすることよねー」

　イリスは呑気に鼻歌を歌いながら外湯を探す。

「とりあえず、さっき見た地図の通りだと、この辺にあるはずなんだけど……あっ、あった」

　シェラが目の前の建物を指差した。

　それは木造の小屋みたいな感じの建物で、左右に男湯と女湯の入り口が分かれており、中央に外湯の由来について書かれた木板が掲げられている。その下には賽銭箱があった。

「この賽銭箱にお金を入れろってこと？」

「ええ。公衆浴場は基本的には無料なんだけど、まぁこうやって利用者の良心に任せるってことね」

「そうなんだ。それじゃあ」

　シェラは財布から２００円を取り出し、その賽銭箱の中に入れる。

「それじゃあはいろっか」

「ええ」

　そして二人は浴場の中へと入った。

　中はすのこの板と、『土足厳禁』と書かれた張り紙があり、靴を脱いであがると左手に古ぼけたロッカーがある。

　入浴者の姿はまったくなく、数個の桶が無造作に置かれていた。もちろん、石鹸やシャンプーなんてものはない。

「ちょうどいいときにきたみたいね。貸しきり貸しきり」

「うん……でも、シャンプーとか持ってこなかったよ」

「なにいってるのよ。そんなもの必要ないじゃないの。上がり湯かければいいのよ」

「そっか。そうだね」

　二人は服を脱ぎ、湯船から湯をくんで体にかける。そして温泉に入った。

　イリスは素っ裸、シェラは体にタオルを巻いている。

「ふわぁ〜……極楽極楽」

「やっぱ温泉はいいわねぇ〜」

　しばらくの間無言になり、チョロチョロと温泉の流れ出る音だけが浴場の中に響き渡る。

「ところでシェラ」

　気持ちよさそうにしながらイリスがシェラを見た。

「入浴マナーって知ってる？」

「もちろんだよ。でもそれがどうかしたの？」

「じゃあ……これはマナー違反よね！」

「ひゃっ！？」

　突然、イリスはシェラの体に巻きついていたタオルを剥ぎ取る。あまりの突然の出来事に、シェラは驚きの声をあげた。

「温泉に浸かっていてタオルを巻くだなんて、邪道中の邪道よ」

　イリスは剥ぎ取ったタオルを、そのまま放り投げてしまう。

「うううっ……」

　イリスと同様生まれたままの姿にされたシェラは、恨めしそうにイリスを睨んだ。

　そんなシェラを見て、イリスはクスリと笑った。

「なぁにその反抗的な目は？もぅ、悪い子ちゃんにはお仕置きしちゃおっかな？」

「え、ええっ！？だ、だって、ここ背景真っ白だよ！？」

「大丈夫。全年齢程度の表現に押さえといてあげるから」

「ちょ、ちょっと、そんなこといわれても、こま……あんっ！？」

「あらー。シェラちゃんってば随分敏感なのね」

「だ、だめイリスぅ！！そ、そんなとこ触っちゃ……ひゃぁん！」

「おー。愛い奴愛い奴。それじゃあこんなこともしちゃおっと」

「だ、だから、駄目、だって、ば……あ、あ、そ、そんな……こと、だ、駄目……」

　そしてイリスの『お仕置き』はしばらくの間続けられた。