「ふぅ〜……」

　シェラはタクシー案内所を出るや、大きく溜息をついた。

「で、どうだった？」

　イリスは腕組みをしながらシェラに尋ねる。

「ダメ。お話になんない」

　シェラは首を静かに左右に振った。

「駅まで５０００円だって。そんなに払ってられないよ」

　そして再び溜息をつく。

　バスでの移動を諦めたシェラはタクシーで行くことを思いつき、タクシー会社の事務の人に駅までの値段を尋ねてみた。そして返ってきた答えが、新渡戸稲造１枚分くらいだったのである。しかしこの時シェラは大きなミスをしていた。それは、目的地の駅を『飯山』までと言ってしまったのである。実際に降りた駅は『戸狩野沢温泉』。これでは運賃が高くなるのも仕方がない。しかし今のシェラには、そんな心の余裕はまったくなかった。

「……で、どうするわけ？また温泉で教育的指導？」

「え、えっとね。湯の花号じゃないけど、長電の急行バスがあるんだって。長野駅までの」

「ほー。それはなかなかいい感じじゃない？」

「で、でもね、ちょっとバス停が遠いんだって」

「ほーう？」

「で、でもでも、あと１時間くらいあるから、きっと大丈夫だよ、うん」

「ふーん？」

「じゃ、じゃあ、早速バス停にレッツらゴー☆」

　シェラは張り切った様子を装いながらズンズン歩き出す。

　バス停に着けば一応それでめでたしめでたし。

　しかし……

「ちょっとシェラ。バス停までまだなの？」

「え、えーっと……あ、あはは……そろそろのはずなんだけどね……」

　歩けど歩けどバス停が見えてこない。

　それもそのはず。

　シェラは下る道を間違えていたのだ。

　直進して下ればいいモノを、右折して保健センターの方へ下ってしまえば、見えるものも見えるはずがない。

　結局、この後いくらなんでもおかしいと思ったイリスに促され、戻ってようやく目的地のバス停に着いたのであった。

　もう少しで本当に遭難するところだった。

　歩道までせり出した２Ｍ近くの雪の壁に囲まれた車道を延々と歩くハメになったイリスの、後に漏らした感想である。