水上駅を出発してから、車内改札のため車掌がやってきた。

「普通電車で車内改札なんて珍しいね」

「そうですね」

　二人はあらかじめ切符を用意しておき、いつでも見せられる準備を整えておく。

　そして車掌がシェラ立ちの前に止まった。

「お客さん、どちらまで？」

「土合まで」

「そうですか」

　車掌は切符を見ると、そのまま立ち去ろうとする。

「あ、待ってよエミル」

　そんな車掌の後姿をシェラが呼び止めた。

「車掌と呼べ、車掌と」

　エミルはくるりと振り向くと、不機嫌そうに吐き捨てる。

「じゃあ車掌さん。質問なんだけど」

「なんだ？」

「秘境駅って何？」

「はぁ？土合みたいな駅のことだろ？」

「それじゃあ答えになってないよぉ。土合ってどんな駅なの？」

「…………」

　シェラの言葉にエミルは一瞬呆けた表情を見せたが、やがて低い声でクククと笑い出した。

「そ、そうか。そう言うことか……クックックッ……」

「ちょ、ちょっとなんだよ。何がおかしいのさ？」

「いや、こっちのことだ気にしないでくれ」

「すっごく気になるよぉ！！」

「わかったわかった。じゃあ秘境駅について解説してやろう」

　怪しげな笑みを浮かべたまま、エミルは得意げに語り出す。

「秘境駅って言うのは、文字通り秘境のようなところに存在する駅のことだ。例えば、明らかに利用者がその駅に向かう時に苦労を強いられる駅や、乗降客が極端に少ない駅なんかを指すんだな。わかりやすい例でいうと、安中榛名」

「げっ！？」

　安中榛名の４字熟語を聞いた途端、シェラの脳裏に、安中榛名〜安中１０キロウォーキングのあの苦々しい思い出が蘇ってくる。

「ちなみに安中榛名は１日の平均降客数が２８０人くらいだが、土合は１７人くらいだから。しかも無人駅と来たもんだ」

「な、なんだよそれ！！」

「あーははははは！いつも遊び呆けている貴様が悪い！！『秘境駅シリーズ第２弾！夜の女神土合に死す！』怠け者のぺちゃぱい女神なんぞ凍死してしまえー！！」

　エミルは高笑いを残しながら次の車両へと去っていく。

「私は巻き添えですか……」

「ボ、ボクが悪いんじゃないんだもん！！」

　大きくため息をつくレイアに、シェラは抗議の声を上げた。