東京の朝は早い。始発の電車は午前４時から動き始め、午前７時には既に電車はおしくら饅頭状態が始まる。

　それなのにこの二人は、相も変わらず家を午前８時２５分に出た。

「遅いぞシェラ。早くしないと置いてくぞ」

「あ、待ってよエミル」

「ホントしょうがない奴だな」

　エミルはシェラが出るのを確認してから、家の鍵をかけた。

「まったく、普通家の鍵なんかなくすか？スペアキーできるまで、俺がお前に合わせなくちゃいけないじゃないか」

「ううっ……ゴメンなさい……」

　申し訳なさそうに頭を下げるシェラ。エミルは大きく溜息をついた。

「ホント、しょうがない奴だなお前は。同棲している俺の身にもなってくれ」

「ううっ……」

　エミルの言葉に、シェラは恨めしそうに彼を見た。

「その言葉、すっごく虫唾が走るんだけど……」

「何故だ？」

「だって、何でボクがエミルと同棲しなくちゃいけないんだよぉ！！」

「設定上そうなってるんだからしょうがないだろ」

「設定でも納得いかなーい！！」

「ふん！俺も貴様のようなぺちゃぱい女神と同棲だなんて設定、まったくもって不愉快極まりないが、今回だけは我慢してやる」

「どうしてさ？」

「湖と密約ができてるからな。今回の件がすんだら、俺様が主役のストーリーが出来ることになっているから」

「『魔法研究師エミルの調合日記』とか？」

「いいや、完全新作。フェレス報道局とはまったく別物。ちなみに女を調教する１８禁ストーリーだ。貴様もいつか調教してやる！！」

「……おまわりさーん！！ここに変質者がいますよー！！」

「ふん。まぁいい。そんなことよりもさっさと行くぞ。これ以上こんなところで油売ってたら話が進まん」

「そうだね」

　二人はようやく話を本筋に戻し、駅へと向かった。