５月月末。シェラは軽快に北陸自動車道を駆け抜けるバス車内にいた。

　俗に言う「社員旅行」である。

　６月からは新天地での勤務が待っているのに、何故にこんな理不尽な仕打ちを受けなければならないのであろうか。

　引越しの片付けもままならないまま、会社に言われるまま右往左往。しかも社員旅行のお金は３万程当人負担。まさしく社畜である。

　それでもシェラが社員旅行に参加を決意したのは、場所が石川県は能登半島、和倉温泉だったからである。

「って、湖さんが行きたがっていただけで、ボクは無理やり拉致されたんだから。その辺間違えないでよね」

　なにをう？お前だって温泉好きじゃないか。また裏に回しちゃうゾ？

「ふふーん。やれるもんならやってみなさーい。自分で自分の首絞めることになるだけだけどねー」

　くっ……こいつ、胸は小さいくせに態度だけでかくなりやがって……

「一言多い！！」

　ふん。まぁいい。今の俺はとっても寛大だからな。

　それにしても、北陸道って意外に交通量、少ないのな。

「サービスエリアとかパーキングエリア、無人なところとかショボイところ多いしね」

　上信越道も人の事言えないけどさ、まぁどっこいどっこいって感じ？しっかし、このお通夜みたいな静けさ、何とかならんかね。

「そう思うなら自分で何とかすればいいじゃん。さっきのＰＡでも運転手のおじさんに言われたでしょ？盛り上げてほしいって」

　パスパス。めんどくいさい。それに、何故に自分で金払ってまで参加しなけりゃいけないって言う理不尽な仕打ち受けてるのに、幹事までせなあかんのだ？寝言は寝てから言え。

「うん。そうだね。年がら年中、起きてても寝言を言う湖さんの真似なんて出来ないよね。ボクには」

　なにをう？……まぁいい。ついたら覚えてろよ？海に突き落としてやるからな。

「そうなる前にボクが突き落としてあげるよ」

　相変わらず、口の減らない女神だ……今夜は寝かさないぜ？

「今夜といわず、今すぐ眠りなよ。えーい、ぱんちぱんち〜♪」( ^-^)＝○（)ﾟ▽ﾟ)

　きゃうん♪

「ふぅ、とりあえずこれで、しばらくは大人しくしてくれるよね」