「えっと……新幹線の中で食べるお弁当は……あっ？文明堂のビーフシチュー弁当がなくなってる！？」

　東京駅新幹線ホーム近くの駅弁売り場で、シェラは小さく声を上げた。

　今日は久々の帰省。なので、少しだけ豪華なお弁当を食べようとシェラは心を躍らせていたが、肝心のお弁当がなくなっていた。

「どうしよう……やっぱり牛肉どまんなかの方がよかったかなぁ……」

　シェラは先程通ってきた飲食店通りのほうを見る。

　別にお弁当が売り切れなら、新幹線社内で峠の釜めしを買うという手もある。

　そもそも、歯医者に行ってきたばかりだから、別にお弁当を買う必要はないのだが。こんなところに留まっているのであれば、京王線、中央線をあわただしく乗り継いできた意味がない。

　まったく、このぺちゃぱい女神には、我慢と言う言葉がないらしい。

「ムッ！すみません。叙々苑の焼肉弁当ください！」

　シェラは突然、一番高い弁当を指差す。

　そしておもむろに２千円札と小銭を取り出して、店員の人に渡した。

「後お茶もね」

　そして、お茶と弁当を受け取り、おつりとレシートも受け取って、改札へと急ぎ足で歩く。

「まぁ、お弁当代は湖さん持ちだからいいとして。次の新幹線は……えっ！？あと１分後！？」

　シェラは途端に駆け出し、改札に切符を通して通り抜ける。

「番線は……２１番線！」

　そして２１番線ホームへ行くためのエスカレーターに乗る。

「げっ！？」

　そしてシェラの動きが止まった。

　はるか前方に、エスカレーターを通せんぼするように、大きなキャリーケースをステップにドドンと置いた人がいるのだ。

「フ○○ック！！」

　心の中でダーティーな言葉を叫んだシェラは、恨めしそうに立ちふさがっている人を見た。

　声をかけたところで、とてもじゃないがどいてくれそうな雰囲気はない。

　そしてホームに上がると同時に、新幹線が発車した。

「そんなぁ……」

　愕然とした気持ちで、シェラは新幹線を見送る。

「……まぁ、行っちゃったものはしょうがないよね」

　シェラは気を取り直し、時刻表示板を確認する。

「げっ」

　そして再び絶句した。

　次の新幹線が来るのは、４０分も後のことであった。

「何それ……ボクにこんな寒い中で待てって言うの……？」

　シェラは早くも帰りたい気持ちが大きくなっていた。