わずかの差で新幹線を乗り逃してから約３０分後、新幹線が２１番線ホームに入線した。

　しかし、入線したからといっても、すぐに乗車できるわけではない。

「お客様にご案内します。到着しました長野新幹線はあさま５７９号長野行きとして折り返し運転を行いますので、車内清掃を行います。車内清掃がすむまでどなた様もご乗車にはなれませんので、ご注意ください」

　駅の構内放送が流れ、新幹線が到着し、ドアがプシューと開くや、乗客が降りてくる。

　そして入れ替わるように車内清掃の人が新幹線の中へと入っていった。

「ここからが長いんだよなぁ……」

　シェラは冷え切った手に息を吹きかけ、二度、三度こすりあわせた。

　長野駅などで止まっている折り返しでない新幹線は２０分前からでも乗車は可能だ。

　しかし、常時満線の東京駅では、どんなに早くても３分前くらいからしか乗車ができない。

　そして車内清掃は１０分くらいはかかる。

「まだ終わらないかなぁ……」

　シェラは携帯電話の時計をチェックしながら、車内の様子を伺う。

　そして、発車三分前。

　構内放送と共に新幹線の扉が開いた。

　シェラは自由席の１号車へと乗り込み、席を確保する。

　椅子を倒し、トレイを開いて、その上へお弁当を置いた。お茶のペットボトルは窓際へと置く。

「お腹空いた〜。早速食べよっと」

　まだ出発していないというのに、シェラは早速お弁当を広げる。

「やっぱ焼肉弁当はおいしいなぁ。経費に上乗せして湖さんに請求しちゃおっと」

　シェラは幸せいっぱいの表情で焼肉弁当をほおばる。

　そして１４時４６分。北陸新幹線あさま５７９号長野行きは、長野に向けて動き出した。