「ふぅ〜、今日は遊んだなぁ」
　華允がタオルを首からさげながら風呂から戻ると、既に部屋には豪勢な料理が並んでいた。
「おっ、うまそうだな」
　華允はタオルを物干し台にかけると、腰をおろした。
「さて、と食べるかな。でもなんで料理が３人分あるんだ？……ま、いっか」
「よくなーい！！」
　華允が料理に箸をつけようとしたときガラッと勢いよく部屋のドアが開かれた。
　そして浴衣姿のファトラとミーシャが現れる。
「お？どうしたお前等？」
「もう遅いじゃない！待っててあげたのに！！」
「えっ？待ってたって？」
「夕ご飯ケーちゃんと一緒に食べようってミーちゃん待ってたんだよ」
　カンカンになって怒っているミーシャとは対象的にファトラはクスクスッと笑っている。
「なんだ。最初っからそう言ってくれればいいのに。俺はてっきり三人分の料理が食えるのかと思って密かに期待してたんだが」
「期待しないでよ！」
　ぷんぷんと怒りながらミーシャは部屋には言ってくると、華允の向かいに座った。その横にファトラが座る。
「アンタがこんなに長湯だとは思わなかったわ」
「いやぁ、あんまりにも風呂が気持ちよかったんで」
「気持ちよかったって……２時間も入ってる？普通」
「そんなにはいってたのか……サウナに入ったり風呂で眠ってたりしたからな」
「はぁ……アンタって、ほんっっっとうに、おめでたいヤツね」
「まあまあ。ミーちゃんもそれくらいしにて」
「だってお姉ちゃん」
「もうそれくらいでいいじゃない。わたしお腹ぺっこぺこ」
「お姉ちゃん……うん、そうだね」
　ファトラの笑顔を見て、ミーシャは小さく頷いた。
　それを見た華允も神妙な面持ちになる。
「……ひょっとして、お前等ずっと待っててくれたのか？」
「え？そ、そんなことないよ。料理きたのだってケーちゃんが戻ってくる５分くらい前だったし」
「そっか……ありがとな」
　華允はフッと笑うと、オレンジジュースをファトラとミーシャのコップに注いだ。
「それじゃ、乾杯しよっか」
「さんせー！」
「たまには気が利くじゃない」
　華允にあわせて、ファトラとミーシャはコップを持った。
『かんぱーい！』
　カチン、とガラスがぶつかり合う音が室内に小さく響く。
「ぷはぁ〜！風呂上りのオレンジジュースってうまいな、やっぱり。それじゃあ……」
「ちょっと待った！！」
　コップを置いて料理に箸をつけようとした華允に、ミーシャが再度待ったをかける。
「な、なんだよ……」
「アンタ、あたし達を５分も待たせるようなことしたわよね？」
「な、なんだよ。お前が勝手に待ってただけだろ？」
「ケイン……アンタの伊勢海老があたしに食べて欲しそうな顔をしているわ」
「はぁ？」
「だから、とりあえずこれ貰っておくわ」
「ああっ！？ちょ、ちょっとまて！！」
　言うや否や、ミーシャは電光石火の如く華允の伊勢海老を強奪して自分の口の中へと運んでいった。
「おっいしー！！身がプリプリとはじけるようで、新鮮そのもの！やっぱ鮮度が違うわ。向こうの世界でもこんなにおいしいもの食べたことないもん。流石違うわね」
「何が『おいしい！』だ！！人の物とるな！自分の食え自分の！」
「なによぅ。ちょっとくらいイイじゃない」
「よかない！俺の伊勢海老返せ！」
「ざーんねんでしたー。もう食べちゃったもんねー」
「くそぅ！！口の中から吐き出させてやる！！」
「ちょ、ちょっとナニするのよ！！バカぁ！！」
「ケーちゃんもう食べないの？じゃあ、わたしがこのウニさん食べてあげるね♪」
「ちょ、ちょっとまてい！！」
　華允とミーシャがジャレあっているうちに、今度はファトラが華允の膳からウニをひょいとつまみあげると、おいしそうに口の中へと運んでいった。
「うーん、このとろけるような食感。ご飯もとってもオイシイな♪」
「あああー！！ファトラ！！お前までそーゆーことするかぁ！？」
「えっ？だっておいしいんだもん」
　ファトラは幸せそうに口をもごもごとさせている。
　一気に華允の気力が抜けていった。
「まっ、これくらいで許したげるから感謝なさい。伊勢海老のお返しに、刺身のつまについてるこの大根あげるから」
「もうケーちゃんの物とらないから安心して大丈夫だよ♪わたしもシソの葉っぱあげるね♪」
「はは……ありがとよ……」
　華允はただ笑うしかなかった。
　そして、楽しい宴会の時間は過ぎていった。