華允が校門を抜けると、その目的の人物はすぐにみつかった。
　その人物は校門に背を向けるようにしながら立っており、俯いたまま地面を眺めている。
　なにか考え事をしているのか、華允の存在にはまったく気がついてない様子だった。
「おい、こんなところでなにしてるんだ？」
　華允がポンと肩を叩くとその人物はビクッと肩を震わせ、そしておそるおそる顔をあげた。
「な、なんだ……ケインじゃないの。驚かさないでよ」
　そしてその相手が華允だということがわかると、ホッと胸をなでおろした。
「驚かすもなにも……一体なにやってるんだ？こんなところで挙動不審な動作しやがって。最近はスパイごっこでもはやってるのか？ミーシャ」
「し、失礼ね！！」
　その人物、ミーシャは華允の言葉に強い調子で抗議した。
「暇だったからちょっと様子を見に来てあげただけじゃないの！！バカぁ！！」
「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」
　華允はミーシャの頭をポンポンと叩く。
　ミーシャはこの高校の生徒ではなく、制服がかわいいことで有名な女子校、私立聖ルフィミア学園中等部に通っている。したがって、ミーシャの今の格好はというと、その中等部の制服を着た姿だ。ちなみに、姉のファトラはこの学園の高等部の生徒だ。
　そのミーシャが挙動不審な態度をとっていたため、最初は物珍しさから奇異の眼差しでその光景を眺めていた下校途中の生徒達も、興味をそがれたのか、再び無関心を装って何事もなかったかのように通りすぎていく。
　まったく……こんなところをウロウロしていたらいい見世物だろうが……と華允は思ったが、ミーシャの気持ちもなんとなくわかったのであえて注意はしないことにした。
「それで、お前これから予定あるのか？」
「えっ？な、なんにもないけど……」
「そっか……なにもないのか……」
　ミーシャの言葉に華允は少しうつむき思案げな表情を浮かべた。
　このまま一緒に帰っても、なんだか面白みがない。
　かといってミーシャのウィンドゥショッピングに突き合わされるのは、おねだり攻撃によってクタクタになるのが目に見えている。
　さて、どうしたものか……と華允は顔をあげると、ちょうど桜が目にはいった。
「よし、花見に行くぞ」
「えっ？」
　突然の申し出に、ミーシャは目を丸くした。
「な、なに言い出すのよ急に！？」
「いやぁ、ミーシャに立派なお姫様になってもらうため教養をつんでもらおっかなぁ……なんて思って。まぁ、課外授業だ」
「……とかなんとか言っちゃって、本当は自分がお花見に行きたいだけなんでしょ！？」
「うっ……よくわかったな……」
　ミーシャの言葉に華允は絶句した。
　どうやらミーシャにはお見通しだったらしい。
　ミーシャは気分をよくすると、どうだと言わんばかりに胸をはって偉そうな態度になった。
「……まっ、いいわ。あたしもどうせ暇だし、一緒についてってあげる。この世界の文化を学んでおくことも大切だしね」
「……とかなんとかいって、本当はお前も行きたいんだろ？俺と一緒に」
　華允が先ほどミーシャが言った言葉をそっくりそのまま返すと、ミーシャの顔がだんだんと赤くなっていった。
「ち、違うわよバカぁ！！もう、あたしが一緒に行ってあげるって言ってるんだから、少しは感謝なさい！！」
「へいへい。恐悦至極、身に余る光栄でございます」
　華允は深々と頭を下げる。
　ミーシャは少し膨れながら視線をそらし、恥ずかしそうに呟いた。
「バカぁ……」
「ん？なにか言ったか？」
「な、何も言ってないわよ！！」
　ミーシャは慌てて身振り手振りをまじえて何も言ってないということを強調すると、華允の制服の裾を掴んだ。
「ほら、さっさと行くわよ！！日が暮れちゃうじゃないの！！」
「わかったから、引っ張るな」
　素直じゃないなぁ……と華允は思いながら、ミーシャと肩を並べて一路公園へと向かった。